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10年ほど前から数年間、羅漢寺山界隈を集中的に歩いたことがあって、その結果、現在の『山梨県の山』にガイド文を新たに加えることになった。その際、この顕著な山域に一般的な名前がなかったので「羅漢寺山塊」と名付けておいた。
そこで紹介したのは、荒川沿いに新道が拓かれるまでは金桜神社への参拝路の本道だった、主稜線に通じる御嶽外道を歩くもので、これは、ロープウエイの通じるパノラマ台付近をのぞけば静かに歩けるのが何よりである。
拓かれた新道というのがすなわち現代の昇仙峡の道で、今さらわざわざ山のガイドブックに載せるまでもない観光地である。しかし、冬の時季には観光客も減って、さらにはこのご時世ではなおさらだろう、昇仙峡の核心部、仙娥滝附近は格別の迫力があるから、たまには歩いてみるのもいいだろうと立てたのが昨日の木曜山行の計画であった。
ボルダー以外に訪れる人がほとんどいない羅漢寺沢を遡って、旧羅漢寺跡を訪ねたのち外道に出、パノラマ台で観光客になってロープウエイを使って下り、昇仙峡を見学するという、一粒で3度くらいおいしい計画である。
旧羅漢寺へは目ざわりなほどテープが木に巻いてあって、これは前回にはなかったことで、最近では訪れる人も増えているのだろうか。有難迷惑の典型である。もっとも、目印があったとしても気軽に入れる場所でもない。
よくぞこんな場所に建てたものだという旧羅漢寺跡あたりから直接弥三郎岳方面へと登れば、また面白い遺構があるようだが、我々は無理をせずに外道へ出た。パノラマ台が近くなると、そろそろ観光客の声が聞こえてくるのだが、まったくそれもなく、やはりこの季節ならではだなと思った。
パノラマ台へ着いたら誰一人いなくて、これはいい機会だと、普段なら絶対に休まないであろう駅前のベンチで富士を眺めながら馬鹿話をしているうち、どうもこれはおかしいのではないかと思い始めた。つまり、ロープウエイが動いている気配がまったくないのである。
営業所に電話すると、冬の点検で休業中ですと。人がいないわけである。「ガーン」これで下りを楽しようという野望がついえた。しかし、初めて歩く下山道は、ほぼ檜の植林地で暗いが、傾斜と地面の状態がとてもよく、足任せに下ることができた。それと、山腹にある無数の石垣にかつての生活が偲ばれ、これはなかなかのケガの功名だと思った。
掉尾を飾る昇仙峡核心部は、さすがに名勝となるだけのことはある。河原の大岩に積もった雪とあいまって水墨画そのものの世界である。秋ならば渋滞するかもしれない歩道で行き交った人も数人程度で、思う存分冬の峡谷を堪能した。
参加の皆様、お疲れ様でした。
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