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▼ 破船   引用
  あらや   ..2017/10/16(月) 09:56  No.411
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 江戸初期の多くの古記録に、一、二行の気になる記述があり、それを強く意識しはじめたのは、かなり以前のことである。荒天の暗夜の海で難儀する船を、海岸に住む者たちが巧みに磯に誘って破船させ、積荷などを奪うことがひそかにおこなわれていた、と記されていたのである。
 そのような記述が、主として日本海沿岸の各地に残された記録にしばしばみられ、私はこれを素材に小説に書くことを思い立った。
 また、恐るべき疫病であった疱瘡(天然痘)にかかった者からの感染を防ぐため、それらの者を船に乗せて海に流したという記録も眼にして、その両者をむすびつけることで、小説の構想は成った。
(「吉村昭自選作品集」第七巻/後記)

吉村昭の小説には珍しい、古記録の短い記述にインスピレーションを得た虚構小説。破船の舞台には、佐渡ヶ島の一漁村を選んだそうです。初出は1970〜71年の雑誌「ちくま」。

1970年か… 札幌の阿呆な高校三年生が宮の森をうろうろしていた頃ですね。

 
▼ 虚構小説   引用
  あらや   ..2017/10/16(月) 10:01  No.412
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 かれは、あらためて三歳の折の記憶を反芻した。父や母が村人たちとともにはしゃいでいたのは、その年にお船様の訪れがあったからであることにようやく気づいた。さらに、それから一、二年は、現在の生活では考えられぬ食物を口にしたり、珍しい物を眼にしたことも思い起した。
 祝いごとや村に死者が出た夜、母は、甕から米をすくっては粥をつくってくれた。発熱した折、母が壺を大切そうにかかえてきて、その中から白いものを指先にのせてなめさせてくれたこともある。それは、気の遠くなるほど甘く、白糖という万病にきく薬だということも耳にした。
(吉村昭「破船」)

「虚構小説」って響き、いいですね。吉村昭みたいな作家が、あえて「虚構」ってことわると迫力があります。この三歳の時の記憶、白米、砂糖に続いて蝋燭の記憶が語られるのですけど、なにか涙が出るほどの美しい記述、美しい物語でした。



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