| 江戸初期の多くの古記録に、一、二行の気になる記述があり、それを強く意識しはじめたのは、かなり以前のことである。荒天の暗夜の海で難儀する船を、海岸に住む者たちが巧みに磯に誘って破船させ、積荷などを奪うことがひそかにおこなわれていた、と記されていたのである。 そのような記述が、主として日本海沿岸の各地に残された記録にしばしばみられ、私はこれを素材に小説に書くことを思い立った。 また、恐るべき疫病であった疱瘡(天然痘)にかかった者からの感染を防ぐため、それらの者を船に乗せて海に流したという記録も眼にして、その両者をむすびつけることで、小説の構想は成った。 (「吉村昭自選作品集」第七巻/後記)
吉村昭の小説には珍しい、古記録の短い記述にインスピレーションを得た虚構小説。破船の舞台には、佐渡ヶ島の一漁村を選んだそうです。初出は1970〜71年の雑誌「ちくま」。
1970年か… 札幌の阿呆な高校三年生が宮の森をうろうろしていた頃ですね。
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