| いやー、とてつもなく切ない物語だった。吉村作品の中でも一二を争う暗さではないか。
『仮釈放』は、『赤い人』以来行刑史にふれてきた私の胸の中で自然に醱酵した罪というものを、自ら問うてみたいという願いで書いたフィクションである。モデルはなく、あえて言えば私自身である。 (「吉村昭自選作品集」第十三巻/後記)
『少女架刑』の、骨になるまで解剖されて行く自分を見ている眼。『赤い人』も(『破獄』も)、もしもこういうモチーフに貫かれて書かれた小説なのだとしたら、読み返さなくてはならない。私は甘く読み間違えているかもしれない。
もしも、私がこの男のような立場にあったら、このような無期刑に相当する行為をとったかも知れず、仮釈放された後の生活も、恐らく主人公と同じ生き方をしたにちがいない、と思いながら筆を進めた。 三分の二ほど書いた時、私に迷いが生じ、筆をとめた。最後の部分は執筆前から定めていたことであったが、それを改めてみようかという考えにとらわれたのである。 私が主人公であったら、と思った。熟慮した結果、私は定めた通りの結末にすることを決意し、再び筆をとった。 この結末について、単行本で発表された後、読んだ方から酷にすぎるという批評をうけたが、罪という奥深い淵をのぞきみるには、これが妥当であったと思っている。
|