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No.420 への▼返信フォームです。


▼ セールスマン物語   引用
  あらや   ..2017/12/12(火) 10:10  No.420
   雑踏する繁華街を、サムプルの風呂敷包みを背負い、或はトランクを重そうに提げて歩いて居るセールスマンの姿を私は時々、見かける。
 セールスマンと云うよりは、むしろ、彼等の間に丈け使はれる販売員とか出張員とか云う呼び名がぴつたりするのだが、その風呂敷包みは、大低、黒無地か或は唐草模様なので一寸、注意すれば簡単に見分けることが出来る。そして彼等は、極く一部の例外を除いて大部分がその片手に皮鞄を下げて歩いて居る。
(渡部秀正「セールスマン物語」)

「人間像ライブラリー」に検索システムが付いて、誰でも読めるようになったので、これからは「読書会BBS」に書くようにします。

渡部秀正さん。初期「人間像」には小樽から参加している重要メンバーが二人いて、その一人が渡部秀正さん。(上沢祥昭さんについては後日…) 針山和美氏が「初期人間像のチャンピオン」と書いた程、デビュー作からその才能が全開でした。何をもって「才能」というのか難しいところなんですけれど、渡部さんの小説に付いている筋肉って、とても自然な筋肉に感じる。厳しいトレーニングや増強剤でつくった筋肉ではないだけに、なにか本物を感じますね。あと、昭和の小樽光景がふんだんに描かれていて心底嬉しいです。

 
▼ 壮徳/北鈴沢   引用
  あらや   ..2017/12/12(火) 10:15  No.421
   その日、壮徳で仕事を済ませた私は、午後六時を過ぎて、すつかり暗くなつた街に泊らず、終列車で、未だ行つた事の無い北鈴沢へ入ることに極めて居た。
 壮徳の加納旅館はあの時以来、泊つて居らず、大低は少し無理をしても洞爺湖温泉まで入つて了うのだつたが、ふと、未だ余り人に知られて居ない田舎の温泉と云う点に興味を持つて北鈴沢へ行つてみようと思いついたのだつた。まさか其處で、とんでもない災難に遭うだろうとは考えてもみなかつた。
(渡部秀正「セールスマン物語」)

渡部さんの小説は昭和の小樽情景が嬉しいのですけれど、『セールスマン物語』は、さらに「壮徳」「北鈴沢」という年末ボーナスが付いた感じですね。

物語の「壮徳」は実際の「壮瞥(そうべつ)」町ですけど、ここに「徳」の字を当てるのは、同じ胆振線沿線に優徳(ゆうとく)や徳舜瞥(とくしゅんべつ)があるからですね。「北鈴沢」は実際の「北湯沢」ですけれど、ここに「鈴」を持ってくるのは、同じく沿線に「北鈴川」があるから。この二つの土地を架空にすることで、この『セールスマン物語』というドラマの震源地を暗示しているばかりでなく、主人公が小樽から来たセールスマンであることによって、ひどく私の心を揺さぶったのではありました。まるで私のための物語。渡部さん、ありがとう。



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