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▼ 遠い幻影   引用
  あらや   ..2019/03/10(日) 10:17  No.493
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朝から夕飯までライブラリーのデジタル化作業を行い、夜や早朝(←年寄りなのか、朝が早い…)の布団の中で本を読む生活。もうかなり安定化してきたように思います。そのベースには、去年、集中的に読んだ『吉村昭自選作品集』(新潮社,1990−1992)があって、その時々で話題の本や関心のある作家の本へ遠征することもあるけれど、疲れたら、ホームの〈吉村昭〉にいつしか戻って来て身体のチューニングをやっているような気がします。

『遠い幻影』もそんな一冊。遺稿となった『死顔』の、骨と皮ばかりの無惨な〈吉村昭〉の文体を目撃した身には、熟年期の力に溢れた作品群は殊更に大切なものに感じます。大事に、大事に読みたい。1992年以降の吉村作品がまだ数多く残っていることは私の人生の励みです。「人間像」の仕事を手掛けているお蔭で、〈同人雑誌出身の吉村昭〉という視点を持つことができたことも私の幸運でした。

以下、恒例の〈北海道〉部分。

 
▼ 遠い北   引用
  あらや   ..2019/03/10(日) 10:20  No.494
   この町の刑務所に転勤になったのは、昨年の春であった。
 都会から遠くはなれた町に行くのは気がすすまなかったが' 上司たちは一様に幸運だと言い、かれ自身も日頃からその町の特異な性格を耳にしていたので、自らをはげますように赴任した。
(吉村昭「ジングルベル」)

 ジーゼルカーは、丹念に駅にとまることを繰返し、多くの高校生が乗ってきたり、海産物を売りに出た帰りらしい籠や箱を手にした中年の女たちが乗りこんできたりした。が、ジーゼルカーが進むにつれて乗客はへり、窓外に人家の絶えた雪原がひろがった。
 久美子はなぜこんな所にまで来たのだろぅ、
(吉村昭「父親の旅」)

「お父さんは、今、北海道でどのような生活をしているんだろう」
 私は、たずねた。
「住所をきいただけで、それ以上きくと警戒されるおそれがありますのでそのまま帰って来ました」
 房子は、答えた。
「恐らく、その人が君の父親だと思う。これからどうする」
 私は、房子の顔を見つめた。
「会いに行こうと思います。その前に速達の手紙でも出しておいてとも思っていますが……」
 房子は、思案するように首をかしげた。
「会いに行く気になるのは当然だが、その人は、果して喜ぶだろうか」
 私の言葉に、房子は驚いたように顔をあげると、
「喜びませんか」
(吉村昭「夾竹桃」)

 男が寒気にさらされている東屋で夜をすごすことができるのは、北国生れであるからなのだろうか。野外で暮すことをつづけてきたかれには、それに応じた肉体的な強靭さがそなわっていて、或る程度の寒さには耐えられるのかも知れない。
(吉村昭「眼」)



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