| 原稿を読み終えられたとき先生は 「困ったね君。これ軍部の検閲は通らんよ。いくら時代が徳川でも、何しろ、外国軍に敗れる日本軍の物語だからね」といわれた。 小説の筋を略述すると――、文化四年にロシアの軍艦二隻がエトロフ島シャナを襲う。守備軍は、幕吏指揮下の南部・津軽両藩士三百。これに対してロシア軍は一門の大砲と兵二十八を上陸させる。日本軍は、敵の優秀な火器に恐怖してエトロフ島を抛棄する――アメリカ海軍に圧迫されつつあった当時の日本軍部が、このような物語を許すわけがない、という事を何故あのとき私には判らなかったのであろう。われながらその間抜けさ加減にあきれかえる。 (古宇伸太郎「広津和郎先生の書翰」)
その、戦時中に没になった長篇小説、古宇伸太郎『霧の海』を本日アップしました。出典は、「人間像」ではなく、昭和45年の「北方文芸」です。同じく「北方文芸」から、針山和美『同人誌だより・人間像』はすでにアップ済み。今、古宇伸太郎『広津和郎先生の書翰』を作業中です。 『霧の海』のワープロ作業をしている時、なにかこれ、以前「人間像」で手掛けたことのある小説じゃないか…と考え続けていたんだけど、わからない。「古宇伸太郎」の項にそれらしきものはなし。それが福島昭午『青い炎』(第67号)だと気がつくまでに、三日ぐらいは楽にかかりましたね。
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