| 本を実名で書いた理由について、西川さんは「この学校を卒業した事実は逃れられない。(暴力の嵐の中で自暴自棄だった)『暗黒時代』を隠さずに書くことで、自分にけじめをつけようと思った」と語った。 (同記事より)
新聞は小樽後志版として扱うので、どうしても倶知安の中学〜高校にいた時期に焦点を合わせて本を読んでしまう。でも、「青春 ひまわりのかっちゃん」を読んで、私がいちばん印象に残ったのは、倶知安に転校してくる直前、北檜山の中学校の、二月放課後の教室の場面ではありました。たまたま教室に残っていた悟とかっちゃん。
「悟、おまえ、中学校卒業したらどうするんだ?」 「働きに出る」 「なにして働くんだ?」 「函館の五島軒(ごとうけん)。そこでコックの見習いやるんだ。おれ、勉強はできないけど料理なら自信あるからな」
貧困故、進学の夢がかなわない悟やガスたち。彼らを慮って、「おれ、高校生になったらよ、夏休みに五島軒に行くから、悟が作った料理食べさせてくれや」とやさしく言うかっちゃん。嬉しくなった悟は司(つかさ=かっちゃん)に自分の夢をそっと明かします。
そう言うと、悟はつかつかと黒板に行くとチョークを持って、「自分の店、開くことなんだ。もうだいたいどういう店がいいか考えてあるんだわ」 悟はチョークで黒板に見取り図のようなものを描き始めた。 「洋食屋なんだけどさ、広さはこのぐらいで、ここらへんにカウンターもあってさ。だいたいこんな感じなんだ。土建屋のガスに手伝ってもらえぱ安くできると思うのさ」 下手な見取り図を見ながら、悟はとてもうれしそうだ。 「修にも手伝ってもらえばいいべや。あいつは大工になるって言ってるから、もっといい店に造ってくれるんでないか?」 悟の顔がパッと輝いた。 「うん。おれが頼んでもダメかもしれないけど、司が頼んでくれれば、修は絶対にやってくれるな。司、そのときになったらほんとに修に頼んでくれるか?」 「うん。頼んでやる」 (青春 ひまわりのかっちゃん)
この場面を読むと、いつも涙が出ます。世の中は、悟やガスや修や司だけでまわっているのではない。そんなこと、学校を一歩でも社会に出ればすぐにわかることなんだけれど、学校という共同幻想の中にいる中学生には、それはわからない。永遠に、悟やガスや修や司たちが生きて世界を構築していると信じられてしまうのが「学校」というものの正体なんですね。
「してな。店の名前なんだけど、ひらがなで“つかさ”ってつけたいんだ。司が書いた字をのれんにしてさ。司、書いてくれるか?」
いやー、悟のこのことば、切ないなぁ。(函館の五島軒も懐かしいぞ!)
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