| 翌日、一月一九日、死刑判決を受けた被告二四名のうち一二名に、恩赦による無期懲役への減刑が発表されました。幸徳、管野、大石誠之助、宮下太吉、新村忠雄、古河力作ら一二名には、そのまま死刑判決が維持されています。 その日のうちに、大石誠之助は、東京の獄中から、故郷の紀州・新宮にいる妻・栄子に宛てて、手紙を書いています。……読んでみましょう。 《ある人の言葉に「どんなにつらい事があろうとも、その日か、おそくも次ぎの日は、物をたべなさい。それがなぐさめを得る第一歩です」という事がある。 お前もこの際くよくよと思ってうちに引きこんでばかり居ずと、髪も結い、きものも着かえて、親類や知る人のうちへ遊びに行って、世間の物事を見聞きするがよい。そうすればおのずと気も落ついて安らかになるだろう。そしてうちをかたつける事など、どうせおそなりついでだから、当分は親類にまかせて置いて、今はまあ自分のからだをやすめこころを養う事を第一にしてくれ。 私はからだも相変らず、気も丈夫で、待遇はこれまでの通り少しも変った事はない。こうして何ヶ月過すやら何年過すやら、また特別の恩典で出して貰う事があるやらそのへんの所も、すべて行末の事は何ともわからないから、決して決して気を落さぬようにしてくれ。 ほかに差あたって急ぐ用事もないから今日はこれだけ。 一月十九日 誠之助 栄子どの》 冒頭で言われた「ある人の言葉」――どんなにつらい事があろうとも、その日か、おそくも次ぎの日は、物をたべなさい。それがなぐさめを得る第一歩です――というのは、ツルゲーネフ『ルージン』の一節らしいのです。ごく最近になって、これに気づいた人がいて、僕は教えられたのですが。 (黒川創「暗殺者たち」)
おや、ブックトークをやってる人がいる…
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