| 啓子はクーぺから降り立った。 敷地は有刺鉄線で囲まれている。粗末な門柱の一本に、もう消えかけた文字の看板。 かろうじて「寒別澱粉加工場」と読める。 門柱のあいだには鎖がわたされていた。鎖に板が吊るしてある。 「立ち入り厳禁。倶知安田川興業管理」 電話番号がその下に記されている。去年見たときのままだ。ひと夏だけ貸すという契約であれば、この看板はそのままにしておいたほうがいいという判断なのだろう。啓子は昨年の秋にこの看板の文面をメモしておいたのだ。 (佐々木譲「犬どもの栄光」)
小樽に戻ってきてから「寒別」や「赤井川」が舞台の小説読んでるってのもなんだかなぁ…とは思う。でも仕方ないよね。山麓の図書館はまだまだ貧弱で、こんな昔の本なんか持ってないのだから。
なんとなく、これからの私の仕事を暗示しているみたいで面白い。
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