| 「カジキサー カジキサー。ノムラノオヤジャ ハヨ タタセニャイカンガナー モ タッタケナー」 「ヨシトシサー ヨシトシサー ヨシトシノオヤジャ モ イッキタツモス」
緊急を要する要件ゆえ、連合国側の盗聴覚悟で、外務省−ドイツの日本大使館間の国際電話を使用することに踏み切った軍部。その時に使われた方法がこれです。標準語から最も遠い鹿児島弁で会話する…なんですね。じつに「へえーっ」です。
「カジキサー カジキサー。ノムラノオヤジャ ハヨ タタセニャイカンガナー モ タッタケナー(カジキさん、カジキさん。ノムラの親爺は、早く発たせなくてはいけないが、もう発ちましたか)」 ノムラの親爺とは、野村海軍中将のことをさしていることはあきらかで、その帰国をうながしていることか理解できた。 曾木は、すぐに答えようとしたか、一瞬、ノムラという言葉をヨシトシという人物が口にしていることに狼狽した。 (中略) 曾木は、声をはりあげると、 「ヨシトシサー ヨシトシサー ヨシトシノオヤジャ モ イッキタツモス(ヨシトシさん、ヨシトシさん。ヨシトシの親爺はもうすぐ発ちます)」 と、早口で答えた。 (吉村昭「深海の使者」)
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