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No.468 への▼返信フォームです。


▼ 第124号   引用
  あらや   ..2017/02/03(金) 08:28  No.468
  針山和美『山中にて』以外の『人間像』第103号全作品を読み通すのに十日ほどかかりました。改めて、図書館の日常とデジタル・ライブラリーの仕事の両立はもう無理と感じます。もう、じつに若くない。

「どこへ、何しにいくの」
「もうすぐわかるって」
 さだはそういうと、なっ、と和太を振返った。和太が頷いている。あまり喋らない。何か緊張しているみたいだった。
 さだが踏切で立ち止った。汽車の気配に耳を澄ましているようだった。線路を歩いていくのだろうか。行く手に孝運寺のうっ蒼とした樹々が、夜より濃い色を重ねている。
(村上英治「いつかの少年」)

 「孝運寺」の名前が出てきて、はじめてこの話は倶知安の話なんだと気がつきました。だとすれば、これは戦争中の話でもあるので「もしかすると」と思って読み進んでいたところ…

 映写室からスクリーンヘ照射されていた光が消えて、場内が暗転した。席にそのまま落着くように、危険はない、二、三人の声が特別席から連呼している。スクリーンに発火したフイルムの気配が消えたことで、場内がいくぶん落着きを取戻した。場内の暗色を正面のスクリーンが仄明るくしている。薄く暮残った空のような色がスクリーンを染めていた。映写室の中で何かが起きていた。近くにいる慎二にその異様な気配が伝わってきた。物の倒れるような重い音がし、人の呻くような声が映写室の壁を洩れてきた。
(同書)

布袋(ほてい)座。昭和十八年三月六日夜、映画館布袋座の大火災。三月八日付の北海道新聞は「折重り二百名焼死/丈余の積雪に非常口開かず/倶知安布袋座、招待映画会の火事」の見出し、四段トップ記事で報じています。当時の新聞としては異例。


 
▼ いつかの少年   引用
  あらや   ..2017/02/03(金) 08:34  No.469
  戦時中のこと故、世情の無用な混乱を防ぐため内々裏に処理されたと聞いていたので、まさか布袋座大火災を背景に織り込んだ小説作品が存在するとは思っていませんでした。また、孝運寺の方も、知る人はみんな知っている、あの沼田流人が左腕を落とすことになる因縁の舞台ではあります。「汽車」「線路」の言葉も、これが「京極線(後の胆振線)」だと知って読んでるのと、知らないでただの「汽車」「線路」だと思って読んでいるのではけっこう大きな違いがあるんですけど。

『人間像』はさすが旧制最後の倶知安中学同窓生たちが集まって始まった同人雑誌だけあって、全体に山麓ならではのスピリットが充満している。読み進めれば読み進むほど、単に針山作品のデジタル復刻だけでは収まれないという気持ちが強まってきています。やるのならば、完全復刻したい。

124号表紙にもある通り、この号の目玉企画は村上英治氏渾身の長篇三百四十八枚『いつかの少年』一挙掲載と、もうひとつ、新同人・佐藤瑜璃氏の『赤提灯素描』のデビューです。「瑜璃」の名前でハッと気がついた人がいたら嬉しい。佐藤瑜璃氏は旧姓・沼田瑜璃子。沼田流人の次女・瑜璃子さんです。小説を書いていたというのもヘェーッだったけど、『赤提灯素描』の舞台が小樽だったことにはもっとヘエーッでした。

ちょっと紹介の仕方が変だったかもしれないので、村上英治氏や佐藤瑜璃氏の名誉のためにもきちんと書いておきます。『人間像』の諸作品や両氏の作品に山麓のアイテムや因縁が溢れているから、私はデジタル復刻したいと言ってるのではありません。『人間像』の作品すべてに、作品としての自立があり、美しさがあり、私はそういうところを尊敬し愛するからこそ多くの人々に読んでもらいたいと思いデジタル・ライブラリーを考えました。

 
▼ 三年間   引用
  あらや   ..2017/02/06(月) 06:26  No.470
  いや、凄い。このような作品がぎっしり詰まっているのに、針山作品だけをデジタル復刻してなにか仕事をしたつもりになっているのだとしたら、それは馬鹿だということでしょう。『いつかの少年』、完全復刻決心の決定打になりました。

「少年」がおそらくキーワードになるのだと思う。この人たちは戦争を少年期、思春期で体験していることが大きいのではないだろうか。今、昔藤原書店から出ていた『戦後占領期短編小説コレクション』を同時並行的に読んでいるのだけど、なにかおしなべて燃えません。(田村泰次郎『肉体の悪魔』みたいな作品が例外的にあることはあるが…) 敗戦を大人が迎えるのと、少年期が迎えるのでは、そのエネルギー量が決定的にちがうような気がする。生き残った「少年」の爆発は凄い。

さだはどこか、風の又三郎に似ているところがある。そう慎二は思うのだ。
(村上英治「いつかの少年」)

長篇348枚のデジタル復刻なんてとんでもない作業量に思われるでしょうが、なんかな…、そんなこと全然苦にならない変な身体になってしまった。現在続けている縦書きテストで、『山の子供』なんか軽々と復刻してしまいましたよ。(掲示板に載せるため解像度を70Kに落としています。実物は遙かに鮮明)



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