| 「ご覧なさい。この有様なんですよ。……私ほんとに苦労したわ。」 と、如何にも弱々しく言つて、もう涙ぐんだ。おみよは一寸返事の仕様に困つた。心の奥ではひどく気の毒になつて来た。お君は東京に出て来てからの窮状を今更のやうに話し立てたが、おみよは今お君の話す、大抵の事はM――町に居た時に、その手紙で知つて居たので、半分、話に耳を貸しながら、心では頻と札幌に居た時分の、お君の華美な生活を思ひ出して居た。夫婦で放蕩の限りを盡して、財産を失してしまひ、それから東京に流れ込んで来ると男は肺病になつてしまつた…… (水野葉舟「おみよ」)
筑摩書房「明治文学全集」をまともに読んだの、これが初めてじゃないかな(笑) 図書館司書人生が始まった四十年前から、読もうと思えばいつでも図書館に在る本だけれど、読む必然が何もないままこの歳になってしまったというか。呆れた話だが。 大塚英志/山崎峰水『黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治』を読んでいたら、水野葉舟が登場していてちょっと興味を持ったのでした。まあ、青空文庫でいいんだけど、一生に一度くらいは「明治文学全集」で読むのもいいかと。 水野葉舟はまあどうってことない作品でしたが、並んでいる「明治文学全集」の各巻ラインナップはちょっと興味を惹かれましたね。将来デジタル化を夢見ている沼田流人『血の呻き』のための筋力トレーニングとして積極的に取り入れようかと思いました。 あと、啄木の散文作品のクォリティの高さも再認識しましたね。『病院の窓』ひとつで、「明治文学」のゴミ作品を蹴散らかして余裕で予選リーグ一位通過だわ。
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