| 一行の乗った特急「はつかり」は、既に刈り入れを始めたみちのくの水田地帯にさしかかって居た。その頃、関根達は今夜の宿泊地、松島のパークホテルの平面図を前にして、あわただしい、しかし真剣な打合せを始めて居た。店主が参加する予定の処へ、急にその娘が現われたり、店主と息子の予定が夫婦に変って居る気まぐれの客の為に、昨夜遅くまでかかって作成した部屋割りを、もう一度、やり直さなければならぬ事になりそうだった。 (渡部秀正「招待旅行の話」)
本日、渡部秀正『招待旅行の話』をアップしました。作業は今のところ順調に進んでいます。 2020年の私は、この第80号を最後に渡部さんの作品はもうこれ以降読めないのだと知っていますから、なにか切ない気持ちで作業をしていました。切ないと云えば、特急「はつかり」の名が出て来たことも切なかったなあ。親の仕事が国鉄だったので東京の学生時代は札幌との往復は全て鉄道でした。飛行機に一回も乗ったことがない。いつもこの「はつかり」でしたね。上野から青森駅に着くまでで十時間もかかるんだけど、飛行機料金の十分の一で札幌へ帰れることは貧乏学生には有難かった。この方法以外考えたことはなかったなあ。『招待旅行の話』が見事にこの「はつかり」コースを巡っているので少しばかりセンチになった。
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