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▼ 北海タイムス物語   [RES]
  あらや   ..2018/07/12(木) 08:51  No.458
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「新入社員に毎年紹介してますが、あれはタイムス少年像というものです。昔、うちの会社は北海道の貧しい田舎でタイムスの新聞配達をしている少年たちに奨学金を出して高校や大学に行かせていました。そのときの名残りです」
 たしかに左脇に新聞の束を抱えていた。その少年の後ろには大きな鳩がレリーフされている。
 桐島さんが僕の顔を見た。
「鳩が気になるんでしょ」
「あ、はい……」
 桐島さんがくすりと笑って「毎年新人に聞かれてここで説明してるけど今年は宿題にします。鳩と新聞社の関係、考えといて」と言った。
(増田俊也「北海タイムス物語」)

で、これが竹中敏洋「タイムス少年像」。「北海タイムス」はもう廃刊しましたから、もうこの彫刻はありません。写真は、原子修の彫刻詩集『札幌の彫刻をうたう』(みやま書房,1981.10)からお借りしました。

野外彫刻って、けっこう動くんですね。この彫刻詩集の中央区エリアだけでも、例えば、エイトビルにあった梁川剛一「開拓凱旋の像」や、札幌市民会館にあった竹中敏洋の「札幌市民憲章」レリーフが改築などでいつの間にか消えたりしています。で、突然、駅前のアスティ45壁面の竹中敏洋「THE SKY」を見つけて、あれーっ、これって「札幌市民憲章」レリーフじゃないの?とか。なかなか奇怪なことが多い。


 
▼ ことば  
  あらや   ..2018/07/12(木) 08:57  No.459
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「彼女は原稿を書き上げたその日の夜、十九歳で亡くなった。だから彼女は出版されたこの本を見てないんだよね。作家が命を削って書いた本ていう言葉があるよね。でも彼女は命を削ったんではなくて、命と引き替えにこの活字を遺した。ほんとに俺たちアイヌ民族の誇りだよ」
「…………」
「なにかの目的を持って人間が生まれてくるのだとしたら、彼女はこの本を出すというたった一つの目的のためだけに生まれてきたのかもしれない」
 そう言ってマスターはウィスキーを一口飲んだ。
「俺、浦さんが大学時代に戻ってきたときこの本を貸したのさ。それをお守りのように肌身離さず読んで、精神的にきついときに自分を鼓舞してたみたいだよ」
「きついとき?」
(増田俊也「北海タイムス物語」)

ことばが、いちばん動かないものかもしれない。残したいと思う人がいる限り、ことばは、作品は残って行く。

知里幸恵のことばは人々の心に残って行く。『北海タイムス物語』が残るかどうかはまだわからない。

 
▼ シャトゥーン  
  あらや   ..2018/07/19(木) 14:14  No.460
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 このところ、天塩研究林ではヒグマによる人身事故が続いていた。二年前の冬、フリーの動物カメラマンが行方不明になり、捜索隊によって片脚と頭骨のー部が発見された。山狩りで擊ち取られたヒグマの胃の中から、カメラマンの骨や髪などが出てきた。その半年後には、薫のかつての師である北大の夏目次郎教授が行方不明になっている。こちらは死体は見つからず、ヒグマに食い尽くされたのだろうと言われている。
(増田俊也「シャトゥーン」)

アマゾンで「吉村昭」とか「羆嵐」を引くと必ずこの本が関連で出てくるので昔から気にはなっていたのですが、これも増田俊也だったんですね。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、『七帝柔道記』、凄いですね、ヒット作ばかりじゃないの。

写真は、去年の夏、彫刻写真を撮りに稚内へ行った時、通り道だったので苫前の「三毛別羆事件復元地」にも寄った時の一枚です。いやー、北の沢。羆のエリアと人間のエリアの接点そのものですね。「シャトゥーン」が「穴はずれ(穴持たず)」の意味だとは… 勉強になりました。


▼ 羽志主水   [RES]
  あらや   ..2018/07/09(月) 16:07  No.457
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用あって、久しぶりに「青空文庫」へ。
今は、「人間像ライブラリー」作品の最後から直で「青空文庫」に移行できるので便利です。また、直で「えあ草紙」画面で読めるので、作品理解度が格段にちがう。(もう、横書きHTML画面には戻れません…)
驚いたのは、「青空文庫」に音声読み上げ部門ができていたこと。聴いてみたけど、タコ部屋話をアニメの女の子音声で語られた日にはぶっ飛んでしまいましたね。でも、あえて、それを違和感とは今は云うまい。「ちまちま人形」を初めて見せられた時のような不快感は全く感じなかった… 事によったら大化けするような気配もある。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001305/card47418.html
羽志主水(はし・もんど)、『監獄部屋』。初出が『新青年』大正15年3月号。青空テキストの底本が『日本探偵小説全集11・名作集1』(東京創元社,1996.6)。
プロですね。沼田流人が『監獄部屋』166ページで力一杯書いた物語を、わずか数ページの短篇でそれを越えてしまっている。
決心しました。デジタル復刻すべきは、沼田流人『血の呻き』、ただ一冊きりだ。「人間像」の仕事が終わったら、取りかかります。



▼ 無題   [RES]
  sxsxsxsxs   ..2018/06/11(月) 04:02  No.453
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<< http://ch × at-1.7th.it >> ===== << http://ch × at-2.7th.it >>

 
▼ Re:無題  
  lool   ..2018/06/11(月) 05:19  No.454
  http://www.p × oweredbyliquidfire.mobi/redirect?sl=16&t=dr&t × rack=121881_219109&siteid=219109

 
▼ Re:無題  
  lool   ..2018/06/11(月) 15:12  No.455
  http://pastebinkaav4f5x.on × ion.dog/79348cc23fc6add38123812ff67c9433
http://pastebinkaav4f5x.on × ion.dog/dd16992275e601a65ef19dc7ffa76a8b93f0137c

 
▼ 消しますよ  
  あらや   ..2018/06/12(火) 06:49  No.456
  何だろな、これ。気持ち悪いから、消しますよ。

ホームページ作る時、デザイナー(?)から盛んに、こんなダサい掲示板やめて、フェイスブックなどに切り替えた方が人が集まりますよと忠告されたもんだけど。私は、こういう「人」たちとか、100文字以上の文章読むと頭がショートする「人」たちが書き散らす落書きを嫌ったんです。「浅田次郎の方が面白い」とか、「桜木紫乃はないんですか」といった落書きを目にして、作家や作家の家族の人たちがどれほど厭な気持ちになるか考えてみてください。


▼ 北辰群盗録   [RES]
  あらや   ..2018/04/10(火) 11:07  No.449
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 一八七八年(明治十一年)前後から一八八五年(明治十八年)にかけて、ロシア極東地方アムール川河口流域一帯で、馬に乗って武装した一党がロシア人村やロシア軍駐屯地をしばしば襲った。極東少数民族の馬賊団とみられているが、部族は特定されていない。
 最盛期、彼らの総勢は百を超えていたと推定されており、流刑地から脱走したロシア人政治犯やポーランド人も加わっていたと言われる。ロシア軍による追討が何度かおこなわれ、一八八五年の末には、馬賊団はアムール川上流地方へと追い払われた。その後この馬賊団はロシアの記録から消え、二度と登場してこない。
 ロシア連邦ハバロフスクの市立博物館に、彼らが掲げていたという一枚の粗末な旗が残されている。ロシア軍が一八八五年に、ハバロフスク近郊で鹵獲した品々のうちの一点という。黒地に白い星印が縫い取られており、白い星の部分に、うっすらと文字が書かれている。日本人もしくは中国人であれば、それが「共和国」という漢字であるとわかる。
(佐々木譲「北辰群盗録」/史実によるエピローグ)

というわけで、『英龍伝』も出たことでありますし、幕末三部作に突入しようかな…という昨今です。大河ドラマ『せごどん』。薩摩弁、何言ってるのか全然わからない。先週も、薩摩藩士の青春群像観てたら、だんだん腹が立ってきて途中でテレビ消してしまったよ。


 
▼ 婢伝五稜郭  
  あらや   ..2018/04/29(日) 17:09  No.450
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「樺太には、じっさいのところ、どのくらいの榎本軍がいるのでしょう」
「降伏前に脱走した者、およそ三百とも言う。その一部は、すでに渡り切ったことだろう」
「誰かが統べているのですか。率いている誰かがいるのですか」
「伝習隊に、兵藤俊作という男がいた。聞いた話では、榎本総裁は室蘭にいた沢太郎左衛門以下二百の将兵に降伏を伝えよと、兵藤俊作を室蘭に派遣した。ところが兵藤俊作、降伏を伝えた後、降伏を拒む者は自分に続けと、室蘭から蝦夷が島の奥地に消えたそうだ。室蘭から彼に従った者、数十いたとか。おれたちも、兵藤殿に合流しようと考えていたのだ。その前に薩摩部隊に出くわしてしまったのだが」
(佐々木譲「婢伝五稜郭」)

やー、つながりましたね。こうなると『五稜郭残党伝』も読んぢゃおうかな。今年は桜も早いみたいだから、五稜郭も連休で満開かな。

 
▼ 羊蹄山  
  あらや   ..2018/04/29(日) 17:24  No.451
   峡谷をはさんで打ち合った日から六日目である。
 広大な原野に入ったその日の夕刻、志乃たちはとうとうイプツのコタンを遠目に見ることができた。
 和人地の山を下り、シリベシという富士にも似た形の山の裾野を横切って、和人が拓いた街道に入った。本願寺道と名がついており、浄土宗の僧侶が開削したものだという。内浦湾の虻田という土地と、イシカリの浜の漁場をつなぐ道だ。厳しい峠越えがあるため、蒸気船がよく使われるようになったいまは、あまり通行人もなくなったという。それでもいちおう薩長の討伐隊を警戒しながら、志乃たちはこの道で峠を越えた。途中から、トヨヒラペツという川に沿って下る道だ。そうして昨日の夕刻、イシカリの広野に入ったのだった。
(佐々木譲「婢伝五稜郭」)

人間像ライブラリーに『文芸作品にそびえる羊蹄山』というのをアップしました。山麓のアイテムが出てくるとメモする癖は今も身体に残っています。

 
▼ 五稜郭残党伝  
  あらや   ..2018/05/15(火) 08:35  No.452
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 それから二日後の午後。
 シルンケを含めた三人は、千歳の邑を見下ろす丘の端に着いた。
 千歳は本来、支笏、と呼ばれていた土地である。大きな窪地、の意味であるが、支笏が「死骨」に通じるということから和人はこの地名を嫌った。近辺では鶴が多く生息していたから、支笏に代わって、千歳、の名がつけられたのである。支笏の名は、いつしか千歳の西方にある陥没湖をさすようになっていた。
(佐々木譲「五稜郭残党伝」)

いや、楽しめますね。昔やっていた文学散歩「バスの旅」では、行く先々の土地にまつわる文学作品を集めたアンソロジー冊子を必ずつくっていました。『支笏文集』もあるんだけど、なんかライブラリーにアップしたくなった。ここ三十年間の文書を整理・ファイルしたので、そういうことも可能になってきています。「残党伝」ですかね…


▼ おらおらでひとりいぐも   [RES]
  あらや   ..2018/04/01(日) 10:44  No.447
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 ファンファーレに押し出されるようにして上京したとき。桃子さんの回想は必ずそこから出発する。あのときを境に確かに桃子さんを取り巻く風景は一変した。山の子から都会生活へ。良い悪いは考えない。とにかくそうなったのだ。
 上野駅に降り立ったときのあの心細さ、それでいながら何とも言えない解放感を桃子さんは今に忘れない。たいへんなことを仕出かしてしまったという思いはあった。が不思議と後悔はなかった。もう引き返すことなどできないのだ、ならば後悔なんかしない、と自分に言い聞かせて。でもすぐにそんなことも不要になった。目新しさ、何もかも新鮮で心を奪われて、それに後悔だのなんだの後ろ向きのことを考える前に、まずここで働いて食べていかなければならないのだ。仕事を探した。何でもよかった、住み込みという条件さえクリアできれば。すぐに蕎麦屋の店員募集の張り紙を見つけた。東京オリンピックの好景気に沸くこの街で贅沢さえ言わなければ何とかなりそうな気もした。
(若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」)

東京オリンピックと言われると、私には必ず思い浮かべる作品があります。『ひよっこ』じゃありませんよ。

 宮本先生の話によると、東京は今、三年後のオリンピックを控えて、空前の好景気に沸いているらしい。空港、高速道路、競技場などが急ピッチで建設され、とにかく人手不足だという。
 たまに父を見舞いに行く市街地でさえ遠く感ずるのに、東京などとても想像がつかない。それに、私がいなくなったら信はどうなるのだろう。山羊の乳は誰が搾るのだろう。父は、母は、畑は……
(峯崎ひさみ「小豆」)


 
▼ 穴はずれ  
  あらや   ..2018/04/01(日) 10:49  No.448
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団塊の世代の人たちの思春期を語る言葉として「三年後のオリンピック」ほど的確な言葉を他に知らない。峯崎さんの『穴はずれ』、また読み返しました。また感動した。

『おらおらでひとりいぐも』には、感動したとか、そういうものはないのだけれど、なにかしら、じわーっと自分の過去があれこれ思い出されてくる小説ではありましたね。

昨日は歯の定期チェックで久しぶりに京極町に居ました。学校が春休みのせいかもしれないけれど、通りに人影が全然なくて寒々しい町だった。一年前のこの日、「人間像ライブラリー」やりたくてこの町を出たんだな…とか急に思い出した。

今やってる『人間像』第32号のデジタル復刻が終わったら、『穴はずれ』の復刻に取りかかろうかとちょっと思いました。アマゾンなどでも流通している現役の本なのでデジタル化は遠慮していたのだけど、でも、『穴はずれ』が入っていない「人間像ライブラリー」なんて意味ないな…と京極の町の様子を見ていて思ったのです。よい作品だからこそ、紙でこの手にしたい…と考える人も出てくるだろうし。けして紙の邪魔にはならない。そういう風に生きて行こうとも思いました。


▼ 初陣・転迷・宰領・自覚・去就   [RES]
  あらや   ..2018/03/28(水) 14:36  No.446
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「女性だから、仕方がないだろう」
「それが悔しいのです」
「悔しがる理由がわからない」
「それは、竜崎さんが、女性になったことがないからです」
「当たり前だろう」
「体力でも、技術でもかなわない。それが悔しいのです」
「不思議だな」
「何が不思議なんですか?」
「どうして、女性であることを利用しないのか、不思議なんだ」
美奈子は、一瞬言葉を失った。
(今野敏「訓練」/「自覚 隠蔽捜査5.5」)

旭川出身の畠山美奈子さん、横田めぐみさんを奪還してほしい。

『隠蔽捜査6/去就』を読んでいる時、部屋のラジオは佐川宜寿元理財局長の国会証人喚問を流していたので、感想。逢坂誠二がさかんに「あなたの人生、これでいいのか?」みたいな泣き落とし戦術を使っていたけど、これ、とんでもない三文小説。佐川氏が感極まって真実(?)の暴露でも始めると夢見ていたのだとしたら相当に甘い人間たちだと思いましたね。



▼ 隠蔽捜査   [RES]
  あらや   ..2018/03/22(木) 09:52  No.442
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「美紀と話をしてくださいね」
「子供のことはおまえに任せてある」
「結婚の話ですよ。しかもお相手は、あなたの元上司の息子さんだし……」
「良縁だ。何の問題もない」
「美紀は迷っているようですよ。なにせ、まだ若いですし……」
竜崎は、新聞をめくり必要な情報を頭に叩き込もうとしていた。
「わかった」
また生返事をする。
  (中略)
五紙全部に目を通し終えたとき、息子の邦彦が寝間着代わりにしているトレーナー姿で現れた。
「朝ご飯は?」
妻が邦彦に尋ねる。
「コーヒーだけくれよ」
竜崎は新聞をたたんでテーブルの端に置いた。
「予備校はちゃんと行ってるんだろうな?」
尋ねると邦彦は、眼を合わさぬままこたえた。
「ああ。だからこんなに早起きしてるんじゃないか」
(今野敏「隠蔽捜査」)

ふーん、うちの家族構成と同じだ…


 
▼ 果断  
  あらや   ..2018/03/22(木) 09:56  No.443
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「お母さん、だいじょうぶ? 顔色が悪いわよ」
竜崎はその言葉に驚いて、妻の顔を見た。たしかに、いつもより顔色が悪い。朝起きてからずいぶんと時間が経っているが、まったく気づかなかった。
「ちょっと、胃の具合がね……」
「無理しないで、寝てなさい」
竜崎が言った。
「あたしが寝てたら、あなた朝ご飯を食べられないでしょう?」
「もう朝食の用意はできている。だから、寝ていいと言ってるんだ」
「ちょっと、お父さん、その言い方ってないでしょう?」
美紀が竜崎を睨んだ。竜崎はぽかんと娘を見返した。
「なぜだ?」
「朝食の用意が済んだらもう用はないから寝ろってこと?」
「料理を始める前に母さんの不調に気づいたら、別の対処法があったかもしれないが、実際にもう朝食のしたくは終わっているんだ」
「どうしてもっと早く気づかなかったのよ」
「新聞を読んでいた」
(今野敏「果断 隠蔽捜査2」)

家族の朝食風景から始まる書き出しはいいね。『隠蔽捜査』が2005年、『2』が2007年の出版。美紀の就活が描かれるのには理由があると思う。

 
▼ 就職氷河期  
  あらや   ..2018/03/22(木) 10:03  No.444
  就職氷河期の一時終結と既卒者の就職状況
2000年代半ばの輸出産業の好転で、雇用環境は回復し、2005年には就職氷河期は一旦終結した。新卒者の求人倍率は上昇し、2006年から2008年の3年間は一転、売り手市場と呼ばれるようになり、有効求人倍率は2006年から2007年にかけて 1 を上回った。13年近くにわたる採用抑制の影響により、多くの企業で人手不足となっており、労働環境が苛酷になるブラック企業が増加した。
(ウィキペディア)

就職氷河期は脱したみたいだが、この不景気の十年間が若い人たち(特に中・高生)に与えた傷は相当に深いものではないかと考えています。人生観や世界観がかなり変わった世代が生まれた。で、現場は、たぶんあそこだった…と。この感覚は現在まで続いていて、湧学館にいた時なんかはひしひしとそれを感じていました。後遺症みたいな。

『隠蔽捜査』、面白いですね。(今ごろ…)

 
▼ 疑心  
  あらや   ..2018/03/22(木) 10:15  No.445
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「何だ、あれは……」
竜崎はつぶやいていた。妻の冴子の声が台所から聞こえてきた。
「あなた、高校生とかの頃に、好きだったアイドルはいなかったんですか?」
言われて考えてみた。
「記憶にないな」
「きっと、邦彦は、その山咲真美ってアイドルに夢中なんですよ」
「受験勉強の最中だろう。東大受験は甘くないぞ。一心不乱に勉強するくらいの覚悟がなければ……」
「それとこれとは、別問題ですよ。若い子は誰だって自分だけのアイドルがいるものです。疑似恋愛みたいなものですかね……。そこからやがて本当の恋愛に移行していくんです」
「疑似恋愛……。それ自体が無意味だと思うが……」
「意味があるとかないとかじゃないんです。好きになるのはどうしようもないんです」
「そういうものなのか..」
「まったく、こんな唐変木、見たことない」
唐変木などという言い方は、今時死語だろうと思った。
(今野敏「疑心 隠蔽捜査3」)

『疑心』の出版は2009年3月。初出は、「小説新潮」の平成20年(2008年)の6月号〜10月号です。この日付は大事かもしれませんね。というのは、

2008年9月15日。今から思えば、この日が世界経済の「転機」になった。この日、米国の誇る大手投資銀行であるリーマン・ブラザーズは、連邦破産法11条を申請し、破綻した。
(真壁昭夫「2009年世界経済が「100年に一度の危機」を乗り越えるために」)

リーマン・ショック直前の、竜崎家ではありました。


▼ 寮生 一九七一年、函館。   [RES]
  あらや   ..2018/03/04(日) 18:43  No.439
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 勉強しながら聴く、ラジオの深夜放送が好きだった。
 道央の町に住んでいるときは、北海道放送(HBC)の深夜放送を聴いていた。『オールナイトほっかいどう ヤング26時』という番組だった。ローカル局の人気ディスクジョッキーがいたのだ。
 白馬康治、柴田恭、バード山本、金子亭ピン助、黒沢久美子……。
(今野敏「寮生」)

ふーん、こんなにディスクジョッキーいたっけ? 白馬康治が毎晩出ばっていたような印象ですけど。どうして北海道はこういう変な頑張り方をするんだろうって、当時も思ってました。「パックインミュージック」が聴きたいだけのに、なんでこんな陳腐な道民たちにつきあっていなきゃならないのか…と。

1955年の三笠市生まれとあるから、私と三つ違いですか。70年安保を高校三年で迎えるのと、中学三年で迎えるくらいの違いですね。(←この小説のキモでもありますね。) 函館ラサールの一年、二年、三年生の違いとか、遺愛の二年生という設定が上出来でした。今野敏の本読むのこれが初めてなんだけど、『隠蔽捜査』読んでみようかな。


 
▼ 1991年  
  あらや   ..2018/03/16(金) 18:04  No.440
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「コピーの脇にある機械は何だい?」
 佐伯は尋ねた。
「レーザー・ファイリング・システム」
「何だって?」
「レーザー光線を利用するコンパクト•ディスクというのはご存知ですね。そのコンパクト・ディスクにデータを入力したり、検索したりする機械です。つまり、コンパクト・ディスク一枚が、ファイリング・キャビネットに当たるわけです。コンパクト・ディスク両面にA4で約一万枚のデータが入力できます」
(今野敏「潜入捜査」)

私にとっては「やあ懐かしいな…」としか言い様のない時代。1991年(平成3年)。小樽に来た年だったかな。車にスワン社機材の一切合切を詰め込んで北日本フェリーで来たんだけど、その時のパソコンはNECの16ビットパソコンだったと思う。まだ「ケータイ」は登場していない。勤めた女子短大で、ただの小型電話だった携帯電話が、デジカメやメールができるくらいまでに進化した十年間の女の子の変化を眺めてすごすことになる。

なんで、こんな昔の本を読んでいるかというと、『隠蔽捜査』が常時貸出中で、なかなか第1巻から揃わないから。この本は、1991年『聖王獣拳伝』(←時代だね!)のタイトルで天山出版から出たものが、『隠蔽捜査』ヒットのあおりをくって再発されたものらしい。書架にはこういうものしか残ってない。私は全然OKですけど。

 
▼ 2010年  
  あらや   ..2018/03/17(土) 09:10  No.441
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「おまえの得意のインターネットで調べてみたらどうだ?」
「あ、そうですね」
木島は携帯電話を取り出して、しきりにボタンを押しはじめた。
皮肉のつもりで言ったのだが、通じない。木島が手にしているのは、普通の携帯電詁には見えなかった。つい、興味を引かれて尋ねた。
「それ、何だ?」
「携帯ですよ」
「ただの携帯には見えないけどな……」
「ノキアのスマートフォンです。海外では、これを持つのはジャーナリストやビジネスマンの常識ですよ。フルブラウザなので,パソコンのサイトが見られるんです」
「日本ではあまり普及してないな……」
「キャリアのシステムが海外とは違いますからね。まったく、日本のキャリアはどうかしてますよ。ワンセグだ、ミュージックだ、ムービーだって、くだらない機能ばかり優先して、こういう基本的に大切な機能を持つスマートフォンをないがしろにするんだから……」
木島の携带電話についての講釈など聞いているつもりはなかった。
(今野敏「天網 TOKAGE 2」)

スマホ前夜。

2011年2月、千葉の峯崎ひさみさんを訪ねた時、東西線の中で向かいの座席の男がやってる動作が変だ。指で何かやってるのだが、子どものゲーム機でもないし。何、あれ?
というのが最初の目撃だったのかな。その年の大晦日、小樽へ帰る電車の中で、声高にケータイで話しているオバサン以外、全員下を向いてスマホとお話している光景を目にすることになる。


▼ しんせかい   [RES]
  あらや   ..2018/02/25(日) 18:07  No.438
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女子カーリングで全世界に飛び交っている北海道弁について書きたいなーと思ってたのだけど、「人間像」第30号と格闘している内に、世界の方が「そだねージャパン」まで一気に駈け上がってしまった。まあ、いっか。

 さっき預けに行って来たしょ。見てたしょ
 聞きなれない方言だ。いや聞いたことがある。北海道だ。「そうだよ」男はいった。明日受けるそれは北海道にある。富良野というところだ。
(山下澄人「率直に言って覚えていないのだ、あの晩、実際に自殺をしたのかどうか」)

三年前の芥川賞なら、待たなくても借りられる。で、湧学館の時には「読まなくちゃなー」とか思ってる内に読み忘れたものを今頃読んでるわけです。『しんせかい』はフツーでした。『限りなく透明に近いブルー』の昔から、自分の青春は何ものにも代えがたいほど大事なものなのだろうけど、私にはフツーでした。(芥川賞審査員はこの手に弱いね…) わずかに希望を感じたのは、同じ本に収録されている『率直に−』かな。この「富良野」の出し方はカッコいい。

「そだねー」もよかったが、北朝鮮の猿芝居をぶっ飛ばした女子アイスホッケーには大拍手です。あの試合以後、北朝鮮の何たら美女応援団が間抜けそのものに見えた。今日のテレビ見ても、「まだ居たのかー」という感じ。旧世界だわ。



▼ 虚洞   [RES]
  あらや   ..2018/02/03(土) 13:31  No.437
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 云えばそれだけかも知れない。アプレと多情女。二人に変質者の代名詞を与えさへすれば、事件の本質は表面上丸く納るかもしれない。然し宮脇は〈同年代の男〉として〈絶望的情欲をかき立てた女〉として、此の二人に直接つながつていそうな気がして、死者を嘲笑しているような記事にレジスタンを感じた。アプレとは何か。戦争下に生れ育つて来た人間の、傷だらけの精神を理解しようとせず、古めかしい既成観念だけで、世人は青年を一方的に非難しようとしている。多情女とは何か。デモクラシーの看板の裏では、自由など何一つも許されていない。その中で、せめて肉体だけでも、自由に生きようと悶えた女なのだ。多情なんて軽々しく云うけれど、世の薄情者よりは、多情の方が余程尊いでわないか。
(門脇幸夫「泣きつ面」第四回)

あのガリ版刷りだった「人間像」が、よくぞここまで来たものだ! そう感じさせるのが、門脇さんの『泣きつ面(「虚洞」第二部)』でしょう。「人間像」第28号までの中でも断突の長さの作品故、ここまで引っぱって来て最後でコケたらどうしよう…(同人に与えるショックも相当だろうな…)とかなり本気で心配していました。

先ほど『泣きつ面』デジタル化、完了。心配など無用でした,。見事なフィニッシュだった! 「人間像」の同人たちは、この後、このレベルを引き受けて作品を書かなければならなくなった。武者震いですね。門脇さんの名前、第35号あたりで消えてしまうんですね。惜しいです。でも、ここまで自己や時代を突き詰めたなら、本望だったのかもしれません。









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