| TOP | HOME | 携帯用 |



読書会BBS

 
Name
Mail
URL
Backcolor
Fontcolor
Title  
File  
Cookie Preview      DelKey 

▼ 佐左木俊郎   [RES]
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:03  No.685
  .jpg / 37.7KB

縁あって、今、佐左木俊郎という作家の作品を読んでいます。

〈佐左木俊郎〉で検索しても小樽図書館には『モダニズム・ミステリ傑作選』というアンソロジー一冊しか所蔵してないようなので、とりあえずそれに収められた『猟奇の街』という作品を読んだ。あまりピンと来ませんでした。というか、私には〈モダニズム・ミステリ〉という概念に興味がないみたい。萩原朔太郎の〈ミステリ〉というのも読んだけど、ますますピンと来ない。

で、『北海道文学全集』に〈佐左木俊郎〉が収録されていることに気がついて探してみたら第十二巻に『熊の出る開墾地』がありました。(小樽図書館の検索システムはなぜ『熊の――』がヒットしなかったのだろう) これが良かったんですね。さっそく道立図書館からあれこれ取り寄せて、今、読んでいる次第です。

沼田流人と同時代ということなんだけど、なんとなく、菊池マツヱを捨てて東京に走っていたらこういう感じの人生だったのかな…とか妄想しました。


 
▼ 土竜  
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:08  No.686
   「山は、まったくいいですね」
 と竜雄は、あらためて四辺を見廻すようにした。
「え、山はね。宜(い)がすちゃね……」
「どこを見ても、みんな緑だ。実に新鮮な色彩だ。それに、土の匂いがするし……。ほんに、田舎に限るな」
 彼は独り言のように言った。
(佐左木俊郎「土竜」)

最初の『芋』はふーんという感じで読み始めたのだけど、次の『土竜』になって、おーっとこれはただ者ではない…と感じましたね。都会帰りの人間を出すと、東北の土の匂いがよりぶーんとしてくる。これで最後まで読んでいけると思いました。

 
▼ 熊の出る開墾地  
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:11  No.687
   「ほおら! しっ!」
 馭者が馬を追う声がして、ぎしぎしと車体の軋めく音が近付いて来た。間もなく樹の陰から馬の首が出て、胴が見当の上を右から左へと移動した。若い農夫は激しく動悸する胸で、猟銃にしがみつくようにして引き金に指をかけた。約三十秒! とそこへ、左から右へ人影が現れた。アイヌであった。
 若い農夫は驚異の眼を見張り、ほっと溜め息を吐くようにして、猟銃を自分の足許に立てた。アイヌはそこに立ち止まって、若い農夫の見当を遮ったまま、珍しい馬車での通行者を、いつまでも見送っていた。
(佐左木俊郎「熊の出る開墾地」)

アイヌはこの場面一度きりの登場。話の流れからいっても、ここでアイヌが出てくる必然は何もないのだが、妙に印象的なんですね。物語全体が引き締まる。昭和四年にこんな技使うなんて凄いや。

 
▼ 或る部落の五つの話  
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:15  No.688
   祠守りは田舎医者の細君だった。
 最初、夫の病中に彼女は夢を見たのだった。――丘の雑木林の中に一本の大きなツバキがあり、その下に泉がある。そのツバキを神体として三週間の礼拝を続け、泉の水を飲んで病夫に飲ませるなら、夫の病気はたちまちに治るであろう。――という竹駒稲荷大明神の夢枕なのだった。彼女はその夢枕の言葉に従った。不思議に夫の病気は、一枚一枚病皮を剥ぎ取るかのように治って行った。彼女は早速、その場所に、そのツバキを親柱として白木のささやかな祠を結んだのだった。同時に彼女はその奇蹟を村に流布した。彼女は人間の願いを竹駒稲荷大明神に伝え、大明神の言葉を人間に受け次いでやると言うのだった。
(佐左木俊郎「或る部落の五つの話」)

農民文学なんだけど、その中に必ず謎解きの要素を織り込んでくるというのは才能なんだろうな。それがフルに発揮されたのがこの『或る部落の五つの話』。ラストには驚いた。もう一度最初に帰って読み返しました。

 
▼ 機関車  
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:18  No.689
   「機関手さん! 御散歩?」
 靄の中から病気のかよわい女の声がした。
 吉田は口笛を止めて振り返った。鼠色の女が姿が、吉田の胸の近くまで、跳ねるようにして寄って来た。
「機関手さん! 済みませんが、私を送って行って下さらない?」
 顔を伏せるようにして、女は、袂の端を噛みながら小声にいった。白粉の匂いと温泉の匂いとが、静かに女の肌から発散した。
(佐左木俊郎「機関車」)

感じ入った。

 
▼ 芽は土の中から  
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:21  No.690
  .jpg / 18.0KB

「今日は、ほんで、なんぽ取られたのしさ?」
「七円だもの。ほんのちょっこら來て……」
 お茂伯母が熊三郎に代わって言った。
「七円とは、また高えなあ」
「安井医者だちから、俺は安いんだべと思ったら、安いどころか、……安井医者でなくて高井医者だもなあ」
(佐左木俊郎「芽は土の中から」)

暗い結末が多い佐左木俊郎の作品。なぜこの作品のタイトルは〈芽は土の中から〉なんだろうとしきりに思った。〈芽〉とは?

この小さな謎をかかえて、『狼群』に入って行こう。


▼ 十二階下   [RES]
  あらや   ..2023/11/13(月) 14:51  No.681
  .jpg / 50.8KB

「お前は掃き溜に居たんだね、東京の……」
「東京の掃き溜つて、何処さ」
「浅草の十二階下さ、女の掃き溜だよ」
「ふん、女の掃き溜に遣つて来る男は、何でせう。色恋の屑屋でございだわ」
「そんなもんかも知れないね。然し今では熊谷で、春よしのお種と云ふ蝙蝠なんだね」
「鳥無き里ぢやないわ、よ。その家だつて、お君さん、お花さん、みんな十二階下もんよ」
「さうか、矢張り売られた仲間だね」
(松崎天民「十二階下(一)」)

昨日、松崎天民の『宇治龍子に似た女』という作品を人間像ライブラリーにアップしました。この作品は文芸雑誌「新小説」に連載された「十二階下」シリーズの第一回にあたり、後に『女人崇拝』という一冊に纏められるものです。
2023年の現在、この『女人崇拝』を所蔵している図書館は道内にはなく、わずかに国立国会図書館のデジタル・ライブラリーで読むことが可能という状態。ものすごく目が疲れます。でも、喰らいついて、なんとか天民をものにしたい。若き日の沼田流人を理解するには天民が必要なのです。


 
▼ 編年体大正文学全集  
  あらや   ..2023/11/13(月) 14:54  No.682
  .jpg / 17.9KB

テキストには、ゆまに書房発行の『編年体大正文学全集』第八巻を使いました。まだ私には国立国会のテキストを直に扱うような力量はなく、現在、いろいろな松崎天民テキストを比較して、旧漢字・新漢字のバランス、旧かなの処理、総ルビの取捨選択等、いろいろなデジタル化の可能性を探る段階が続いています。

『編年体大正文学全集』、興味深いですね。パラパラとページをめくると、例えば広津和郎『ある馬の話』、おお、これ朽木寒三じゃないか!とか、大杉栄の『獄中記』は大正八年に当たるのか…とか、〈編年体〉というアイデア、カッコいいです。私には分厚い「人間像」…といった印象がありました。

 
▼ 大正八年  
  あらや   ..2023/11/14(火) 12:15  No.683
   京極線が開通した大正八年、一郎は二十一歳になっていた。駅の開設で、木賃宿の経営はむずかしくなることがわかっていた。といって左手を失った体に新しい仕事はなかった。一郎は流人の筆名で、地方新聞に作品を投稿した。作品はときどき新聞にのった。しかし文学への関心が高まれば高まるほど、流人の悩みは深まっていった。
(武井静夫「沼田流人伝」)

と、ここから、武井氏の論考は、流人に文学的影響を与えた「吉田絃二郎」との関係への考究になって行くのだが… 私には今も昔も眉唾です。吉田絃二郎は小説の素材として面白いから流人との交流があったのではないか。流人のことを小説に書いているからといって、それが、流人に小説を書かせる衝動になるのだろうか。人はそんなことでものを書きはじめるのか。

『編年体大正文学全集』第八巻に繰り広げられる大正八年の文学世界。童謡から志賀直哉まで。二十一歳の沼田一郎(流人)の眼の前にこれがあったと知ることはとても大きな勉強になりました。気づきになりました。『十二階下』をコピーしたら直ぐ返却しようとしてたんだけど、止めた。返却日ぎりぎりまで読んでいよう。

 
▼ ソップ  
  あらや   ..2023/11/21(火) 13:15  No.684
   そこで彼等は始めてほっと愁眉を開いて、更に勢ひを盛返した喰意地が胃の腑の底から突き上げて来るのを感ずる。わざわざすっぽんが喰ひたさに夜汽車に揺られて京都へ行って、明くる日の晩にはすっぽんのソップがだぶだぶに詰め込まれた大きな腹を、再び心地よく夜汽車に揺す振らせながら東京へ戻って来るのである。
(谷崎潤一郎「美食倶楽部」)

いや、驚いた。第八巻をたらたら読んでいたら「ソップ」が出て来たよ。今の今まで、流人の造語、流人の不思議な外国語理解と思っていました。まさか、谷崎の作品から「ソップ」が飛び出して来るとは! 『編年体大正文学全集』は真面目に読む必要がありますね。「オルトフオルソ」や「秋誇草」もどこかのページに隠れているかもしれない。

ちなみに、解題によると、『美食倶楽部』は「大阪朝日新聞」に大正8年1月6日から2月4日まで連載された作品とのこと。仕事柄、流人が直接読んでいた可能性は大です。『編年体――』は雑誌・新聞の初出形を底本に使っていることも有難い。時代相がくっきりと表れる。


▼ 知里幸恵 アイヌ神謡集   [RES]
  あらや   ..2023/09/16(土) 16:41  No.675
  .jpg / 51.3KB

この読みやすさは一体どうしたことだろう。

たしかに、1978年発行の岩波文庫版に中川裕さんの「補訂にあたって」と「解説」が加わっただけの造りであって、大きな改変があったわけではないのだが。でも、愕然とちがう。『アイヌ神謡集』がこんなに楽しい本だとは思ってもみなかった。

ホテナオ
ある日に退屈なので浜辺へ出て,
遊んでいたら一人の小男が
来ていたから,川下へ下ると私も川下へ

下り,川上へ来ると私も川上へ行き道をさえぎった.
(「アイヌ神謡集」1978年第1刷)

ホテナオ
ある日に退屈なので浜辺へ出て,
遊んでいたら一人の小男が
来ていたから,川下へ下ると
私も川下へ下り,
川上へ来ると私も川上へ行き道をさえぎった.
(「知里幸恵 アイヌ神謡集」2023年補訂版)

ね、歴然とちがうでしょう。


 
▼ 「アイヌ神謡集」これからの100年  
  あらや   ..2023/09/19(火) 18:33  No.676
  .jpg / 70.0KB


https://www.ginnoshizuku.com/

補訂版の表紙にも、そしてこの知里森舎の2023フォーラムのチラシにも使われている図柄、これは金成マツの作った織物からとった図柄だったんですね。市民会館ホール入口に実物が展示されていました。

登別とか室蘭とか、小樽から行くのけっこう難しい場所なんですね。後志〜胆振の急峻な山々の間を縫ってじぐざく行かなければならない。高速使えばいいじゃないか…という声もあるが、狂ったようなスピードを出す札幌〜苫小牧間を走る勇気がない。(一時間半で小樽にも室蘭にも行けた京極が懐かしい…)
二日がかりの日程なのでビジネスホテルを探したんだけど、登別ってビジネスホテルがないのね。さすがは日本三大名泉というか豪華ホテルばっかり。(そりゃそうか。登別へ来てビジネスホテルに泊まる奴はないわな) で、隣の室蘭になったのでした。

その日のうちにニュース報道されたみたい。
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20230917/7000060966.html

 
▼ ホテナオ  
  あらや   ..2023/09/19(火) 18:37  No.677
  .jpg / 76.0KB

午前中にユカラ口演があって、ウポポ・リムセ公演(←これ、とても良かった、感動した)があってからの、午後の中川裕さんの講演というのが絶妙の組立でした。私が嬉しかったのは、講演中、三分の一くらいの長い時間を使って「ホテナオ」の構造分析をしてくれたことです。昔から、よく意味はとれないけれど、でも変に気になる話だったのを、本の左側のアイヌ語表記から解析してくれたのは有難かった。

フォーラム全体から、『神謡集』本文のアイヌ語や日本語を楽しむ熱気が伝わって来る。知里幸恵の「序文」の美しさに酔いしれてなかなかその先へ踏み出そうとしない人間たち(私もそうかもしれない…)をついに「本文」の世界へ引っ張りだす人たちなのか…と感じました。

 
▼ カムイのうた  
  あらや   ..2023/09/19(火) 18:41  No.678
  .jpg / 70.9KB


https://www.city.noboribetsu.lg.jp/article/2023061500065/

二日目は『カムイのうた』。たぶん、前日よりは人が集まるだろう(駐車場が心配)と思って一時間前に市民会館に入りました。というのは表向きの理由で、彫刻写真を撮る旅ではない…となると、私は何の欲求もない人間だということがよくわかりました。午前中の時間つぶすのが大変だった。(今、デジカメ、使えないんです)

映画は知里幸恵の生涯を丁寧に描いていて、必要なエピソードはほぼ完璧に盛り込んでありました。今後、知里幸恵の「入門書」的な存在になってゆくのではないか。

開演冒頭の監督挨拶で、「アイヌを描いた映画には出たくない」という役者が大半で、役者選びに苦労したというエピソードが語られたが、本当に今の役者って馬鹿だなあ。知里幸恵や金成マツや金田一京助を演じられる一生に一度のチャンスを目の前で取りこぼしたことに気づかない。

 
▼ アフンルパル  
  あらや   ..2023/09/19(火) 18:45  No.679
  .jpg / 66.9KB

フォーラムで渡された資料の中に『のぼりべつアイヌ文化紀行』というパンフレットがあって、これのおかげで長年の疑問が解けました。

横山むつみさん(知里幸恵の姪、前記念館館長)の写真で、犬の散歩で「アフンルパル(あの世の入口)」の前で撮った一枚があります。当時、違星北斗の『郷土の伝説 死んでからの魂の生活』の影響もあって、私もこの「アフンルパル」を見てみたいと思ったのでした。登別在住のある人が教えてくれたのは登別漁港近くの「アフンルパル」でした。犬の散歩にこんな長い距離を歩くのかな?とは思いながらも、漁港付近やアヨロ海岸をうろうろ探しまわりました。でも、よくわからなかった。
今回、『のぼりべつアイヌ文化紀行』で「アフンルパル」の場所を見ると、それはなんと知里幸恵の眠る富浦墓地近くにあったのでした。なるほど、この距離なら犬の散歩も可能だ。ここが知里幸恵や金成マツにもつながる「あの世の入口」だったのか。

これ、いいなあ。登別市郷土資料館、いい仕事してますね。午前中、これやればよかったんだ。

 
▼ 朗読ひろば  
  あらや   ..2023/10/23(月) 18:24  No.680
  .jpg / 45.0KB

https://www.nhk.or.jp/hokkaido/articles/slug-n181541140bae

9月17日、白老町のウポポイで、NHK室蘭とアイヌ民族文化財団が主催する『朗読ひろば〜アイヌと神々の物語〜』が開かれることは知っていたのですが、この日は京極町で大事な用事があるので行けなかったのです。

惜しいことしたな…と思っていたら、昨日、NHK-FMで流してくれました。道央圏だけの放送だったみたい。で、今日「聞きのがし」を見たら、おー!ちゃんと入っている。今週は、『ウィークエンド・サンシャイン』がロビー・ロバートソン追悼特集だし、嬉しいことが塊になってやって来た感じです。

『ホテナオ』、素晴らしい!


▼ テルミヌスの風   [RES]
  あらや   ..2023/08/31(木) 17:10  No.674
  .jpg / 50.5KB

今日は全国的には西武デパートのストライキでしょうが、札幌ローカルではエスタ閉店のニュースなんです。

札幌駅の商業施設“エスタ”閉店まで残りわずか…札幌と共に“刻んだ45年の歴史”に惜しむ声続々
https://news.yahoo.co.jp/articles/2aff95c60cfd66c472bfe5517224ce987704ca66

私も書いておきたい。國松明日香「テルミヌスの風」はどうなってしまうんだろう。

私の認識ではビックカメラの屋上なんだけど、あれはエスタの屋上でもあったんですね。意外に手入れの良い屋上庭園で、札幌駅の雑踏に疲れた時なんか、ここに避難していたもんです。

針田和明さんの作品に札幌駅前の食堂の話があったな。



▼ 小樽湊殺人事件   [RES]
  あらや   ..2023/07/22(土) 18:50  No.671
  .jpg / 28.0KB

小樽が舞台になった作品で〈旭橋〉が出てくるのはこれが初めてではないだろうか。

文下睦夫(ほうだし・むつお)とか瓜生鼎(うりゅう・かなえ)とか、出てくる人物の名前がみんな変な名前ばかりなので、なにか、キリスト教の十二使徒とか、『十二人の怒れる男』とか、そういうものに故事付けた命名なのかな…とか思った。(ワープロの漢字変換で「ほうだし→文下」とストレートに出てくるのにも吃驚)

図書館の新刊コーナーにたまたまあったのと、「人間像」作業のちょうど一段落したタイミングが重なって最後まで読んだけれど、作業中だったら、こういう、頭で拵えたものはストレスがかかるので放り出していたかも。(昔は好きだったんですけどね…)

「あとがき」は最近の荒巻義雄の思考が知れて大変面白かった。今日は部屋の片付けの続きをして、さあ、「人間像」第113号だ。〈乾咲次郎〉が待っている。


 
▼ 帝国の弔砲  
  あらや   ..2023/07/28(金) 17:21  No.672
  .jpg / 47.7KB

図書館から借りてきたのはもう一冊あって、それがこの『帝国の弔砲』。何十人もの予約、予約で書架で見かけたこともなかったのだけれど、この前、漸く発見。発行から二年も経ってるけれど、私は別に急ぎませんよ。

 ラジンスキーが登志矢たちのほうに近づいてきて、鋭く言った。
「銃殺は、中止だ」
 ペトレンコ軍曹が確認した。
「恩赦ですか?」
「いいや」 ラジンスキー少尉は青ざめた顔で首を振った。「首都で、革命だ」
「また?」とペトレンコ軍曹が訊いた。
「昨夜、ボリシェビキが武装蜂起して、冬宮の政府はなくなった。元首が誰か、参謀総長が誰かわからない。軍は、様子を見る」
 登志矢たちは顔を見合わせた。
 十月二十六日の昼前だった。
(佐々木譲「帝国の弔砲」)

考えてみたら、小説で〈ロシア革命〉読んだの、これが初めてではないだろうか。凡くらな「ロシア革命史」本なんかより、遙かに鮮明。遙かに知性。

 
▼ 裂けた明日  
  あらや   ..2023/08/11(金) 14:47  No.673
  .jpg / 35.1KB

「女の名前は、サカイマチです。ご存じですか?」
「サカイマチ?」
「ええ」
 佐藤は、酒井真智、と書くのだとつけ加えた。
 酒井真智。信也は直接には答えなかった。
「有名な女性なんですか?」
「仙台市内で治安紊乱活動に関わっていて、数日前に仙台を逃げました。こちらに向かったという情報があります。自分の娘を連れています」
「こちらというのは、二本松市のことですか?」
「沖本さんのお宅です。来ていますか?・」
「いいえ。誰も」逆に訊いた。「その酒井真智という女性が、どうしてうちに来るんです?」
「理由はわかりません。目的地はあなたの家だ、という情報があったというだけです」
「どこからです?」
「言えませんが、信頼できる情報源からです」
「わたしはテロ組織にも治安紊乱活動にも無縁ですが」
(佐々木譲「裂けた明日」)

館内閲覧のみ可の『日高文芸』第14号(平村芳美『酔いの彼方』を所収)を読みに図書館に行ったら、「北海道の作家」コーナーにこの新刊を発見。ラッキーでした。(道警シリーズ最新作も出てこないかな…) 『酔いの彼方』については稿を改めて。


▼ 牧野富太郎   [RES]
  あらや   ..2023/07/02(日) 14:36  No.666
  .jpg / 64.8KB

『らんまん』、毎日興味深く見ています。人間像ライブラリーでも牧野富太郎に関連する記述があったなあ…と思って、針山和美『三年間』とかあれこれ当たったのだけどなかなか見つからない。この文章にたどり着くのに一週間くらいかかりました。

 一人一人、ルーペを所持させられての授業は、小学校では体験し得なかったことだけに、その喜びと感激は大きかった。それよりも何よりも、採集の名の下に、窮屈な(固苦しい)教室の坐学から、雪の失せた校地の外に、自由に出ることを許された解放感は格別であった。
 あの時の学習で、私の観察した菫は、何という名のスミレであったのだろう。「出来るだけ精しく」――と言う和田先生の指示に従い、花の形状をルーペでこと細かく調べてスケッチし、「スミレの花」――と大書して勇んで提出したところ、先生は笑われて、「葉の表裏や根の先まで観察しないと駄目だ。」――とおっしゃられ、ご自分で作成された腊葉標本を見せて下さった。
 それに貼付されていたラベルには、何やら長ったらしい横文字が書き綴られてあったが、えも言われぬ威厳は、子供心にも十分感じ取られた。それが、学問の世界で通用する正式の学名――、乃ちラテン語の学名と、私との初めての出会いであった。
(長尾登「母校回想あれこれ」)

牧野富太郎の功績のひとつ「植物採集会指導」の全国行脚ですね。昭和十年代の旧制倶知安中学にもその情熱は脈々と生きていたのでした。


 
▼ 阿片秘話  
  あらや   ..2023/07/02(日) 14:41  No.667
  .jpg / 38.4KB

針田和明『阿片秘話』でも牧野富太郎は扱ったはずなんだけど…と探したんだけど、これも見つからない。で、「牧野富太郎」で項目を立てているわけではなく、「矢頭献一」の項目で登場するのを思い出しました。

 牧野富太郎著『普通植物検索図説』は明治四四年(一九一一年)に刊行された。昭和二五年に増訂版、昭和四五年(一九七〇)に新版が出された。秋風の蔵しているのは昭和四五年版である。新版といえども現代の若い人が読むとおそらく古代文字を解読するような難かしさを覚えるであろう。ひら仮名よりも古めいた漢字の方が圧倒的に多いのである。忙がしい現代の人には不向きのようだ。それでも、野草の好きな人なら、図をみながら漢字の行列を目で追っていくだけで結構楽しいに違いない。
 (中略)
 さて、矢頭献一の『文学植物記』に移ろう。
 矢頭献一は少年時代から牧野富太郎について植物分類学の指導を受けた人だ。成人してからもずっと農学畑を歩んできた根っからの植物学者だけあって、植物のことをさらりと書いたようにみえても要点ははずしていない。
(針田和明「阿片秘話」第三回/53 矢頭献一)

 
▼ 京城日報  
  あらや   ..2023/07/02(日) 14:45  No.668
  .jpg / 58.4KB

牧野富太郎は図書館とも縁が深い。

朝鮮総督府時代の史料出版/牧野博士の標本用新聞から
(SHIKOKU NEWS 2006/02/16)
 日本植物学の父、牧野富太郎(1862−1957年)が植物標本を作るために使った明治期の古い新聞の中に、朝鮮総督府(日韓併合前は統監府)の機関紙「京城日報」の未発見の部分が含まれていたことが16日、分かった。韓国の出版社が「補遺編」を復刻して出版し、日本でも販売を始めた。
 京城日報は1906年から45年まで発行された。今回出版されるのは07年6月23日から12年2月18日の間の19日分。
 東大の「明治新聞雑誌文庫」によると、牧野博士が採集した植物を押し花にするために挟んでいた新聞は、樺太や朝鮮半島などの現存しない新聞や珍しいものも含まれ、貴重な資料とされる。同文庫が東京都立大(当時)の牧野標本館から譲り受け、保存してきた。

 
▼ 後方羊蹄  
  あらや   ..2023/07/02(日) 14:49  No.669
  .jpg / 65.2KB

牧野富太郎は後志とも縁が深い。

 軍配は「ようていざん」に上がりました。日本書紀の「羊蹄=し」が、千五百年近くかかって「ようてい」にまで変化したのですね。ああ、長い旅だった!
 十五年前、北海道に戻ってきた私は、それでも、この「羊蹄=し」の読みが不思議でした。なぜ新井白石は「し」と読んだのか? この疑問に答えてくれたのは植物学者の牧野富太郎博士です。牧野富太郎は、「羊蹄」とは「ギシギシ(スカンポ)」という草の漢名で、それを日本では単に「シ」と言うのでこのような用字になったと著しています。この用字は、万葉集や源氏物語にもあるそうで…
(新谷保人「小樽日報 三月/二〇〇九年「後方羊蹄」の旅)

 
▼ 廣井勇  
  あらや   ..2023/07/02(日) 14:53  No.670
  .jpg / 76.0KB

牧野富太郎は小樽とも縁が深い。

10歳より土居謙護の教える寺子屋へ通い、11歳になると義校である名教館(めいこうかん)に入り儒学者伊藤蘭林(1815年 - 1895年)に学んだ。当時同級生のほとんどは士族の子弟であり、その中に後の「港湾工学の父」広井勇らがいた。漢学だけではなく、福沢諭吉の『世界国尽』、川本幸民の『気海観瀾広義』などを通じ西洋流の地理・天文・物理を学んだ。
(ウィキペディア/牧野富太郎)

ドラマで、万太郎に剣の勝負を挑んだのが廣井勇らしい。

このスレッドに使った写真は、私の住んでいる桜に近い熊碓海岸の七月です。沼田流人も愛した熊碓の海。ここから廣井勇がつくった南防波堤が伸びている。そして今日は熊碓神社の例大祭。


▼ 「坊っちゃん」の時代   [RES]
  あらや   ..2023/05/28(日) 14:15  No.665
  .jpg / 14.2KB

 〈京橋瀧山町 東京朝日新聞編集室〉
 〈記事「無政府黨員の公判」〉
啄木 あっ松崎さん これ…… 七十三条該当ということは……
天民 ん……
啄木 死刑か無罪かのどちらかしかない……
天民 だな しかし無罪はあり得ん……
   ひょっとすると政府は二十六名全員を殺すつもりだ
啄木 二十六名全員? ……そんな無茶な
(「不機嫌亭漱石」/第十三章「蒼穹無疆」)

驚いたなあ。明治つながりで『「坊っちゃん」の時代』全五巻を読み返したんだけど、松崎天民、出ていたよ。それも、まさに明治が終わらんとしている最終章あたりで、啄木との会話とは! 『イザベラ・バードの日本紀行』に平取アイヌの酋長として出てくる「ペンリ」が「ペンリウク」だったとか、若い時読んだつもりの本に自信が持てなくなってくる今日この頃です。

天民 主筆! 朝からやっています!
主筆 やっている? なにをやっているんだ 松崎君
天民 死刑ですよ 死刑!
主筆 幸徳たちか!?
天民 判決からまだ六日だというのに もう
主筆 …………
天民 欧米からの反対の声が大きくなる前に
   大急ぎで殺しているんです
   まるで悪事を悟られたくないかのように
啄木 日本は …… 駄目だ
(同署/第十五章「明治が終焉する」)



▼ コブタン第50号   [RES]
  あらや   ..2023/04/27(木) 06:29  No.660
  .jpg / 48.8KB

札幌の同人雑誌「コブタン」が第50号で最終号となりました。編集人がお亡くりになられて終刊となる「人間像」のような形しか知らなかったので、「コブタン」第50号のように、主宰の須貝光夫氏はじめ編集に協力していた家族全員のメッセージが載った最終号には意表をつかれました。最終号となると、愛読していた連載・須田茂『近現代アイヌ文学史稿』も最終回です。

 一九七〇年代において活発な執筆を続けた才能が再び復活していることは大きな希望であろう。就中『揺らぐ大地』はアイヌ文学としての側面から見れば、筆者の知る限り、上西晴治の『十勝平野』(一九九三年)以来となる「小説」の刊行である。アイヌ文学では自伝や詩歌の分野では多くの作品が見られるものの、本格的な創作は乏しかっただけに、『揺らぐ大地』に収録された四編はアイヌ文学史において大きな意義をもっている。
(第十七章 アイヌ民族による現代詩歌〈一〉/現代詩/土橋芳美)

また教えてもらった。「『十勝平野』以来」と聞かされれば読まずにはいられない。そして読めば、なんで俺はこんな大事な本も知らないでおめおめ生きているんだろうとけっこう落ち込む。それにしてもなんという須田さんの持久力だろう。『揺らぐ大地』も、最後の章で取り上げられている『北海道の児童文学・文化史』も、みんな去年発行の本ですからね。でも、これらをすぐに自家薬籠中の物にして進んで行くところに同人雑誌の一番の意味を感じるのです。


 
▼ 揺らぐ大地  
  あらや   ..2023/04/27(木) 06:35  No.661
  .jpg / 13.8KB

「あら、同情?」
 なんということか。今まで感謝こそされ、こんな言い方をされるのは初めてだ。善意を踏みつけにされたようで、むっとして睨みかえした。
 耳の辺りで切り揃えた黒髪に、小さめの顔、濃い睫毛に縁どられた目は、太いアイラインで仕上げたかのように強烈だ。どちらかといえば整った美しい顔なのに、その鋭い眼差しが全てを壊しているように思えた。
「同情なんかではありません。私も学生も勉強になるから手伝わせてもらっているんです」
 落ち着くようにと、一呼吸おいてからゆっくりと言った。
「だったら、研究のため?」
 重ねて言い放った。
(土橋芳美「揺らぐ大地」)

なんといえばいいか。私には、初めて峯崎ひさみさんの『穴はずれ』を手にした時の驚きと同質のものがありました。久しぶりに、小説、読んだ、というか。

 
▼ 光あれ、いまこのときも  
  あらや   ..2023/05/07(日) 11:11  No.662
   その文芸誌を見つめていたら、なぜか書いてみようという気になった。
 久しぶりに原稿用紙をひろげ、
「異族の嫁」
 と、題名を書いた。
 一郎の両親にとって、里子はまさに異族だったのだろう。初めて会った日のことが思い出された。
 結婚しようと思っているんだと一郎が里子を紹介した時、母親が里子の顔をじっと見つめ、声を低めて言った。
「出身はどちらなの」
 すでに重い空気が流れているのは知っていたが、それを感じないふうを装って、
「日高の平取町です」
 明るく返したつもりだった。
「平取町って、あのアイヌの人たちが多く住んでいる所ね」
 アイヌ資料館などもあり、時々ニュースになることもあったが、アイヌ人が多く住むといったって、町の人口の数パーセントでしかない。
「ええ、私もアイヌです」
 少し、語尾が震えた。
「そうなの」
 と言った後に続いた沈黙の意味を里子は知っていた。
(土橋芳美「光あれ、いまこのときも」)

引用が長くなってしまった。でも、何もつけ加えることもない、引き締まった文章だ。

 
▼ コタンの恋  
  あらや   ..2023/05/08(月) 09:49  No.663
   長い旅の間、見知らぬ人々の間で緊張してきたので、この少女の朗らかさに救われた思いでした。
「あなたの名前は」
 少女に尋ねました。
 彼女は持ってきた瓶に水を入れながらクスクスと笑いながら言います。
「私の名前はクラ、ほら大事なものを入れておく蔵からとったんだって。このことは小学校の先生に教えてもらったって。でもうちの父ちゃんの日本語があやしくて、役場に届けに行くとき、クラ、にもう一つラをつけちゃって、だから、クラ、いいえクラ・ラなの」
 そのことが可笑しくてたまらないという風に、ころころと笑うと、髪に挿してあるすずらんが少女の肩で揺れました。笑うなど久しぶりでした。水を飲み、笑いを得て、わたしの感覚はやっと正常に戻りつつありました。
父ちゃんのあやしい日本語≠ニいうのを聞いて、この少女はアイヌなのかと不思議に思いました。
 淡路にいたときは、北海道のアイヌというものをもっと恐いもののように想像していたわたしでした。
 しかし、眼の前の少女は、まるで森の精かと思うほどに愛らしいのです。
 クラ・ラに案内されてコタンに入りました。
(土橋芳美「コタンの恋」)

美しい物語だった。読んだあとは、一瞬、今日これから何をするつもりだったのか、わからなくなる。

 
▼ 向日葵を描く女  
  あらや   ..2023/05/27(土) 18:05  No.664
   「そうね。ラーメン大好きです」
 少し歩くと小さなラーメン屋があって二人はそこに入った。
 裕造はラーメンの値段を確かめ、二人分のお金がポケットにあることにほっとした。カウンターだけの小さな店だった。
 里奈子が味噌ラーメンと言ったので同じものにした。いつもは醤油ラーメンだ。
 里奈子は裕造の左側に座った。
 ラーメンを食べる里奈子を何度も見つめた。
 そしてはっきりと記憶に留めていることがあった。右の耳の下に五芒星のような黒子が盛り上がるようにあったのである。
(土橋芳美「向日葵を描く女」)

 取り残されたような小さな公園に陽が溜まっていた。錆びたブランコ。「故障」の札が貼られたシーソー。屑カゴから空き缶が溢れ、蝿がたかっている。自動販売機だけがやたら新しい。ほどなく冷たいビールが飲めるというのに、ホットココアを買ってしまった。掌に吸い付くほど熱い缶をハンカチに包み、靴跡のついたベンチに座る。
(峯崎ひさみ「バイキ!」)

久しぶりの〈小説〉体験に昂奮して、『痛みのペンリウク』も『ウクライナ青年兵士との対話』も直ちに注文して読みました。六年前にひきこもり生活に入ってからは初めての体験です。


▼ 定本レッド   [RES]
  あらや   ..2023/04/24(月) 09:28  No.659
  .jpg / 32.2KB

51年前の二月、受験のために上京した時、大学の正門前には「銃撃戦断固支持!」のタテ看がズラーッと並んでいたものだった。それが、入学のため上京した四月には、きれいさっぱりタテ看も活動家も姿を消していた。

四月になると思い出す。

昔から気になっていた本なのだが、古本に手を出さなくて正解だった。「定本」の説明には、本作は『レッド』(全8巻)、『レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ』(全4巻)、『レッド 最終章 あさま山荘の10日間』(全1巻)をまとめたものとあった。私が古書店で見たのは『レッド』(全8巻揃)だったけれど、四、五年前で八千円とかとんでもない値段が付いていた。『レッド』の@〜Gで〈あさま山荘〉まで話が進むと勘違いしていました。

その四月ももうすぐ終わり。五月か… 十年に一度の本に出逢ったので、五月を待たないでまた書きます。



▼ サーベル警視庁   [RES]
  あらや   ..2023/03/05(日) 16:40  No.657
  .jpg / 11.1KB

「へえ、黒猫先生、そんなことを……」
「はい」
「それから……?」
「私の江戸言葉を聞かれて、面白がってくださいまして……。新作の小説に使おうと……」
 鳥居部長の眼が輝いた。
「新作の小説に? おめえさんを、かい?」
「いや、どうやら私と話をなさっていて、気っ風のいい江戸っ子を主人公にすることを思いつかれたようでやす」
「江戸っ子が主人公……」
「それが、愛媛の松山かどこかで教師をやるんだそうで……」
「へえ、そいつは楽しみだねえ」
 そこに、葦名警部と藤田がやってきた。
(今野敏「サーベル警視庁」)

こちらの明治警察も、いたる所に小技が詰め込まれていて楽しく読めました。最後に、関川夏央・谷口ジロー『「坊っちゃん」の時代』への謝辞があって、なるほどと思った。

今、平行して、国立国会のデジタル・コレクションの松崎天民を読み進めているのだけど、日増しに天民を人間像ライブラリーで扱いたい気持が高まっています。


 
▼ 帝都騒乱  
  あらや   ..2023/03/06(月) 17:36  No.658
  .jpg / 31.4KB

 岡崎は尋ねた。「しかし、奉天を占領し、五月二十八日には、日本海で艦隊が勝利しました。日本中が戦勝に浮かれているのですが……」
「今はよくても、このまま戦を続ければ、わが国はたいへんなことになります。庶民は重税にあえぎ、日本は疲弊している。奉天、日本海の勝利はつかの間の夢です。もう、日本は持ちません」
 岡崎と岩井は再び顔を見合わせた。
 岡崎がさらに何か言おうとしたとき、背後から明るい声が聞こえた。
「庶務のおじいさん、さようなら」
 岡崎と岩井は振り向いた。声の主は、城戸子爵の令嬢、喜子だった。
 喜子が目を丸くする。
「あら、岡崎さんに岩井さん。庶務のおじいさんを捕まえに来たの?」
 岩井が言った。
「冗談じゃありません。ちょっとご挨拶に寄っただけです」
 喜子はさらに近寄ってきて言った。
「何か事件があったら、また手伝わせてくださいね」
(今野敏「帝都騒乱」)

お約束のいつものメンバーが集まって、さあ、「サーベル警視庁」劇場の始まり、始まり。楽しい休暇だった。さあ、明日から「人間像」第107号作業、再開だ。これが終わる頃には、雪融けているかもしれない。








     + Powered By 21style +