| | 「どうしてまた……急に……」 辞表をつきつけられた部長は驚いて大声をあげた。圭子は昨夜から何度か口に出してみた言葉を、ニッコリ笑いながら明るい声で言ってのけた。 「働きづくめの人生なんて、あまりにも佗しいじゃありませんか、のんびりしたくなったのですよ、歳ですからね」 (佐藤瑜璃「古びた紫陽花」)
「あのう……」 二人の声が重なった。思わず視線が絡みあい、微笑みが交錯した。気がほぐれた。 「どうぞ」と男がいった。 「ええ、あのう、奥さんも来ているのではないかと思いましたものですから……」 探るような言い方になった。 「ああ、そのことですか。……探してはいるのですが、ここに居るとは限らないのです。どこに居るのか分からないものですから、当てもなく探しているのですよ」 (春山文雄「湖畔の一夜」)
『古びた紫陽花』、『湖畔の一夜』、アップしました。単にこの二作品が誌上で並んでいたからという理由ではなく、私はこの二人の作品にはなにか魂の同調性みたいなものをいつも感じるので一度並べて考えてみたかったのです。女の孤独、孤独の女…かな。
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