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No.1188 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第134号 前半   引用
  あらや   ..2025/05/16(金) 10:22  No.1188
  .jpg / 21.5KB

昨日、金沢欣哉『峡谷に鎮む』を人間像ライブラリーにアップしました。「人間像」第134号作業、開始です。今号は小説作品が多く、『峡谷に鎮む』の後、佐々木徳次『呉再び』、北野広『炎の舞』、佐藤瑜璃『宵待坂晩秋』、内田保夫『夜は惑う』、丸本明子『立体駐車場』、春山文雄『はじけた光』、福島昭午『森と記憶と』(『記憶』改題)、朽木寒三『柚木完三の青春日記』と続きます。

どうして針山さんは小説に〈春山文雄〉を使い始めたのかな。


 
▼ 峡谷に鎮む   引用
  あらや   ..2025/05/16(金) 10:27  No.1189
  安易な謎解きや犯人捜しに走らないで、しかし思考の緊張感は最後まで続く…という、じつに極上の味わいでした。〈おんせん〉文学、凄いじゃないか! ただ、これ。

 晩秋の空は広々と晴れ上がって、車内は行楽客が混みあっていた。国鉄B線はF盆地の緩やかな丘陵を縫って走る。丘陵を覆う一面の馬鈴薯畑は取り入れが終わったらしく、掘り起こされた土肌が茶褐色に輝いて見えた。
 列車の左方にはD連峰に連なる唯一の活火山・T岳がゆったりと噴煙を上げていた。村越は約一年前T岳の麓の美沢温泉にいて、朝夕T岳の噴煙を見上げては雄大な自然美に酔い、その日の天候に杞憂してきた。
(金沢欣哉「峡谷に鎮む」)

この表記は直してほしい。なぜ「美沢温泉」だけ実名なの。

 晩秋の空は広々と晴れ上がって、車内は行楽客が混みあっていた。国鉄美瑛線は富良野盆地の緩やかな丘陵を縫って走る。丘陵を覆う一面の馬鈴薯畑は取り入れが終わったらしく、掘り起こされた土肌が茶褐色に輝いて見えた。
 列車の左方には大雪山連峰に連なる唯一の活火山・十勝岳がゆったりと噴煙を上げていた。村越は約一年前十勝岳の麓の美沢温泉にいて、朝夕十勝岳の噴煙を見上げては雄大な自然美に酔い、その日の天候に杞憂してきた。

 
▼ 宵待坂晩秋   引用
  あらや   ..2025/05/21(水) 12:27  No.1190
   日が暮れたねえ、そろそろ灯をいれようか。めっきり日が短くなって、もうすぐ冬が来るんだねえー。あーあ、今日は朝から、にしん漬のつけ込みで腰が痛いよ、立ち上るのもおっくうだ、わたしもトシだねえ。でもさ、そりゃ大変だけど、うちのにしん漬がうまいって、わざわざこの坂登って来てくれるお客もいるんだからさあ、できるうちはがんばらなくちゃあねえ。
(佐藤瑜璃「宵待坂晩秋」)

と、この語り口で最後まで持って行く…という、昔、千田三四郎さんが一人芝居でやった技ですね。考えたら、この技、佐藤瑜璃さん以外に継承できる人ってあまり思いつかないなあ。針山さんもちがうし、丸本明子さんも似ているようで微妙にちがう。やっぱり佐藤瑜璃さんしかいないような気がする。『宵待坂晩秋』、堪能しました。余韻に浸っていたいけれど、次、行きます。

 
▼ はじけた光   引用
  あらや   ..2025/05/24(土) 16:46  No.1191
   警笛を鳴らすとバスは大きなエンジン音を響かせて動き始めた。どれほども乗っていないのにいかにも重そうな動きだった。
 一緒に降りた四人の客が二人ずつ左右に別れて去って行った。麻友美は突っ立ったまま十数年ぶりに見る郷里の街並を眺めた。知らない街のように変わっていた。今にも崩れそうだった古い木造の建物が、みんなけばけばしいサイディングの建物に変わっていた。店の看板までが都会並みに派手になっていた。五月の柔らかな西陽が黄色いセロハンを透したように街並を染めていた。人影はなかった。
(春山文雄「はじけた光」)

その五月ももうすぐ終わろうとしている。前号の『オートバイの女』の時にも感じたのだが、針山さんの文体、変わりましたね。良く言えば「修飾語の少ない、テンポの良いもの」ということなのかもしれませんが、私には持久力の衰えのようなものを先に感じてしまいます。変に都会風の登場人物も気になる。

 
▼ 森と記憶と   引用
  あらや   ..2025/05/26(月) 17:44  No.1192
   宵の雑踏の中で信号待ちをしていた時、隣に並んだ男と視線が合った。(おや?)と思った。どこかで見た顔だ。信号機の発する「通りゃんせ」のメロディの間、誰だったかと考えたが思いつかない。
 次の信号でまた隣の男が私を見た。どうやら私と同じ思いでいるらしいそぶりである。信号三つめで男は、
「失礼ですが、もしや××小学校の……」
「ああ、O君だ」 私は思わず大声を上げた。
(福島昭午「森と記憶と(3)」)

O君の話、もの凄く面白かった。人間像の同人って、自分の少年時代を書かせると異常な力を発揮する印象がありますけどね。昭和のヒト桁世代ですから、少年時代も青年時代も、時代が劇的な変化を遂げたせいかな…とも思うのだけど。針山さんの『三年間』という作品を読むと、その意味がよくわかる。最初の一年間が脇方鉱山への勤労動員。二年目で敗戦。食糧難で今度は援農動員。三年目で旧制中学最後の授業。戦前と戦後の合わせ目みたいな世界をど真ん中で生きてきた世代ですから描く少年時代にも青年時代にも時代の異常な圧がかかっているのだろうと想像します。
そして福島さんの場合は、ここに「父」の存在がプラスされます。『森と記憶と』にも「父」が登場しますが、この「父」は名作『漂流』を書いた古宇伸太郎ですからね。私などは、何気ない父子の会話の場面にも、『漂流』に描かれた古宇伸太郎の少年時代と『森と記憶と』の福島さんの少年時代を完全にオーバーラップして読むことになります。いや、これは、重大な作品かもしれない。
『森と記憶と』は、「人間像」第130号、第132号に発表された『記憶』の改題です。第3回から始まるのはそんな理由です。

 
▼ 針田和明逝く   引用
  あらや   ..2025/05/31(土) 11:13  No.1193
   前号の「編集雑記」欄に肝臓で入院と書いたばかりの針田和明が、三月九日入院先の病院で亡くなった。満五十二歳に一ヵ月足りない若死だった。昨年九月、職場に割り当てられる人間ドックで検査したところ、肝臓に影があると言うので再検査することになり、「肝臓癌」と判定されたのであった。それまで自覚症状は何もなく、本人にとっても晴天の霹靂であった。ただちに入院し治療となったが、最初から「ガン」と告知されるくらいだから、治癒の見込みがあってのことだろうと話を聞いていたのであった。しかし、後で知ったところによると、すでに三分の一程も腫瘍に侵され手術などの外科的処置は不可能の状態であったらしい。直接患部に投薬する最新の技術を施したが帰らぬ人となった。貴重な仲間を失い呆然自失の体である。急遽次号を「追悼特集」にする予定である。

 
▼ 「人間像」第134号 後半   引用
  あらや   ..2025/05/31(土) 11:19  No.1194
  「人間像」第134号(150ページ)作業を終了しました。作業時間は「71時間/延べ日数18日間」。収録タイトル数は「2576作品」になりました。裏表紙は前号と同じ『老春』なので省略します。

人間像ライブラリーの編集用に使っているノートパソコンの処理速度が今年に入ってからどーんと落ちて来て、我慢の限界を超えました。パソコンを買い替えようと思います。150ページに71時間もかかるなんて、やってられない。次号が「針田和明追悼」号とわかった以上、このおんぼろパソコンで対応すると何か思わぬ事故を引き起こしかねない…と思ったのです。

今、その「人間像」第135号の作業準備にかかっているのですが、つい読み耽ってしまってなかなか作業が進みません。もう針田さんの作品を読めないなんて、悲しいです。



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