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No.1203 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第136号 前半   引用
  あらや   ..2025/07/08(火) 09:35  No.1203
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現在、針田和明さんの「人間像」以外の作品収集を続けていますが、その作業には時間がかかります。図書館や文学館にその所在を確認しても、その資料を市立小樽図書館に送ってくれるかどうかは相手館の判断によりますし、もしそうでなければこちらで足を運ばなければならない。その間、ぼつりぼつりと時間が空くので…
「人間像」第136号(200ページ)作業を同時進行することにしました。第136号の作品群は、土肥純光『影絵の男達』、佐々木徳次『波濤』、葛西庸三『学校・「校務補」群像』、丸本明子『川蝉』、内田保夫『またも、また』、春山文雄『夫の裁判』、いつもの連載ものの後に針田和明『病床日記』の第2回が続きます。


 
▼ 影絵の男達   引用
  あらや   ..2025/07/08(火) 09:39  No.1204
   私鉄の踏切では、絶えず警報機が鳴り続けていた。朝夕の混雑する時間帯になると、いつもこんな風だった。沿線の開発によって住宅がふえ、通勤客で車輛が膨れあがるようになるにつれ、急行や特急の増発が電車ダイヤに組み込まれていって、いまのように電車の通行量がふえてしまったのだ。おかけで朝夕は踏切の空くひまもないくらいなのだ。以前には遮断機が開閉するのにも、もっとゆとりがあったように思われたが、この私鉄沿線も、近頃はずいぶん発展したものだ。
(土肥純光「影絵の男達」)

土肥さんの作品を取りあげるの、これが初めてではなかろうか。古くからの同人なのだけど、才気走った朽木さんや千田さんたちの陰で地味な小品を書き続けている人…というイメージがありました。最近の作は徐々にその文章量を増し、針山さんくらいの読み応えになってきています。私がいい作品だなと重視するのは、小説の中の時間の流れがゆったりと正確なことなのです。それで針山さんの作品を好むのですが、この『影絵の男達』にはそれと同じ安定を感じました。第136号の先頭にこの作品を持ってきた針山さんの笑顔が見えるようだ。

 
▼ 波濤   引用
  あらや   ..2025/07/11(金) 08:50  No.1205
   夜半から風が出はじめ、未明にはすっかり海が時化てきて、磯を洗う波音が騒々しくなってきた。
 これなら漁師も出漁を見合すだろうから、久しぶりに実家に帰ろうと思いながら、敬次郎はまたうとうとした。
 このところ漁が続き、運び込まれた鮮魚を加工別に仕分けて女子衆にたのみ、自分も庖丁を持って背割り、腹割りを手伝ったりして、目のまわるような忙しさだったから、とても舅に話をきり出す暇とてなかった。
(佐々木徳次「波濤」)

土曜日に資料を申し込んだのにまだ図書館に届かない。どうなってるんだろう。待ってる間に『波濤』仕上っちゃいました。これ、村上英治さん?と一瞬迷うような佐々木徳次さんの時代小説ではあります。前の土肥さんもそうだけど、関東の私鉄沿線や島根の唐鐘浦の話が札幌の同人雑誌に載るというのが「人間像」の大きな特徴なんです。この特徴が戦後間もない時代から延々と続いて今に至る…というところに「人間像」の価値があると思ってます。さあ次、久しぶりの葛西庸三さんに行ってみよう。

 
▼ 夫の裁判   引用
  あらや   ..2025/07/17(木) 14:37  No.1208
   ある小都市の地方裁判所である。赤煉瓦が今にも崩れそうに見えた。葉山楓美は薄暗い玄関で傍聴の事務的な手続きを終えた。ほかに傍聴人などいなければと願った。
(春山文雄「夫の裁判」)

針田和明調査が一段落したので、また第136号作業に戻っています。先ほど、春山文雄『夫の裁判』を人間像ライブラリーにアップしたところです。葛西庸三さんの『学校「公務補」群像』、面白かった。葛西さんには以前「京極文芸」に発表した『校長群像』という作品があり、おそらくはそれと対をなす作品であるのですが、なんとその二作品の間には二十年の時間の隔たりがあるというんですから私などは驚いてしまう。さて次、私の愛読する『おんせん万華鏡』に行こう。

 
▼ れぶんの風に   引用
  あらや   ..2025/07/18(金) 17:41  No.1209
   明日の午前十時半の出航までは時間があった。私は旅館で着替えた後、夕暮までにハイヤーで島のなかを廻ってみるつもりであった。突然肩を叩いたものがあった。日焼けした背の高い男が微笑をみせていた。
「しばらくでした、わかりますか」
 藩ち着いた丁寧な言葉であった。見覚えがありそうな顔であった。
「武藤です、武藤雄二です」
「雄ちゃん、そうか雄ちゃんか、どうしてまた」
(金澤欣哉「れぶんの風に」)

『おんせん万華鏡』、今回も凄かった。季節も夏だし、ワープロ作業も、私は話の先が読みたくてのりにのって打ちましたよ。金澤さんの作品にはどこかホラーのテイストがあって、私の好みです。

 
▼ 病床日記 (2)   引用
  あらや   ..2025/07/25(金) 14:10  No.1210
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 一時三十分、町子から電話。志保を近所の病院へ連れて行って戻ってきたところ、と言っている。熱は三十七度。喉が赤く腫れていて、薬を三日分とトローチを買ってきた、ということだ。志保が風邪をひくのは珍しい。お粥を作って食べさせるといい、と言ったら、そうね、これからお昼に作ってあげるわ、お粥っておいしいものね、と言っている。キヨミ祖母は北郷へ帰ったので二人きり。今日は行けそうもないわ、ごめんなさい。そうするといい、志保頼むよ、と応えた。
(針田和明「病床日記(2)」/11月14日)

この「北郷」というのは札幌市の白石区北郷ですね。町子さんが育った家。針田さんの小説にも度々登場する家です。小説を読んでいていつも思うのだが、なんかこの家、私の実家に物凄く近いんじゃないか… というより、町子さんの家がなくなって、その土地に私の両親が住むマンションが建てられたんじゃないか…ぐらいの近さ。
もう一つ、ここには昔小さな印刷屋があって、ここで私たちの結婚通知兼暑中見舞い葉書を作ってもらったのも思い出だが、この印刷所、土橋芳美さんの『揺らぐ大地』にも登場する新聞『アヌタリアイヌ 我ら人間』の編集事務局があったところなんですね。平村芳美のペンネームで作品を発表していた頃の「日高文芸」を読んでいて知りました。
『病床日記』の大筋とはおよそ関係ないお話ではありました。すみません。第136号作業も残すところ雑記帳の4編のみです。今週中にも逐えます。

 
▼ 「人間像」第136号 後半   引用
  あらや   ..2025/07/26(土) 17:43  No.1211
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先ほど、「人間像」第136号(200ページ)作業を終了しました。作業時間は「79時間/延べ日数18日間」。収録タイトル数は「2630作品」になりました。
毎日暑いし、紙は手にべたべたくっつくし、けして快適な作業環境ではないのだけれど、それでも延べ日数が少なくなってきてるのはたぶん新パソコンの作業効率が上がって来ているからでしょう。処理速度が早くて仕事が捗る。ストレス全然ないし。

 検温三十七・七度。体重六十六キロ。外は快晴。
 検温八時、三十七・五度。九時、三十七・一度。十二時、三十七・四度。十時町子から電話。とろとろ眠っていたので長話しせず。十時十分点滴。
 (中略)
 町子が手稲駅近くの郵便局、銀行から戻って来た。二人で詰所前の体重計に乗る。私は六十七キログラム、町子は四十八キログラム。
 六時、夕食、全て食べる。町子の持ってきた鉄火巻も少し食べる。
(針田和明「病床日記(2)」/12月1日)

検温と食事ばかりの日々。こういう記述が『病床日記』全体をびっしりと覆っているのですが、不思議と退屈な感じはないですね。私も淡々と付き合って行くことにしました。前のパソコンで『病床日記』をやるのだったら、相当消耗してただろうなあ。



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