| | 私鉄の踏切では、絶えず警報機が鳴り続けていた。朝夕の混雑する時間帯になると、いつもこんな風だった。沿線の開発によって住宅がふえ、通勤客で車輛が膨れあがるようになるにつれ、急行や特急の増発が電車ダイヤに組み込まれていって、いまのように電車の通行量がふえてしまったのだ。おかけで朝夕は踏切の空くひまもないくらいなのだ。以前には遮断機が開閉するのにも、もっとゆとりがあったように思われたが、この私鉄沿線も、近頃はずいぶん発展したものだ。 (土肥純光「影絵の男達」)
土肥さんの作品を取りあげるの、これが初めてではなかろうか。古くからの同人なのだけど、才気走った朽木さんや千田さんたちの陰で地味な小品を書き続けている人…というイメージがありました。最近の作は徐々にその文章量を増し、針山さんくらいの読み応えになってきています。私がいい作品だなと重視するのは、小説の中の時間の流れがゆったりと正確なことなのです。それで針山さんの作品を好むのですが、この『影絵の男達』にはそれと同じ安定を感じました。第136号の先頭にこの作品を持ってきた針山さんの笑顔が見えるようだ。
|