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No.1229 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第139号 前半   引用
  あらや   ..2025/09/29(月) 11:19  No.1229
  .jpg / 19.0KB

 庭の灌木に隠れるようにして、少女が独りで遊んでいた。少女の着ているオレンジ色の服が、木洩れ日を受けて明るく光りをはじいて、眩しいばかりに鮮やかだった。
(土肥純光「揚羽蝶」)

「人間像」第139号作業、開始です。本日、土肥純光『揚羽蝶』をライブラリーにアップしました。以下、佐々木徳次『母のいる遠景』、内田保夫『成田山新勝寺』、北野広『雨降れど』、丸本明子『考える人』、金澤欣哉『半島・うたたか』、朽木寒三『柚木完三の青春日記(最終回)』と続きます。

第139号で特筆すべきは、佐藤瑜璃さんが「流ゆり」のペンネームで父・沼田流人の思い出を書き始めたことでしょうか。『月光』という短い作品ですが、この思い出話は、回を追う毎に次第に長くなって行きます。楽しみです。


 
▼ 成田山新勝寺   引用
  あらや   ..2025/10/02(木) 17:45  No.1230
   京成成田駅を吐き出された人々は、一車線の通りを進行する車を止めて横切る。
 左折すると道は幅が三メートルぐらいになる。成田山に初詣りに行く人と帰る人が交じりあってごったがえしていた。
 成田山とは全国に別院を持つ寺で日本一の不動明王を祀ってある寺で、正しくは成田山新勝寺。
 この成田山。山号であるのに、ある年のある晴れた日曜日。筑波山を登山した帰りに、ふと成田山を思い出し、成田に立ち寄った大学生らしい若者数人が、千葉県の地図を買って成田山を探しても山が見当らない。思い余って、京成の成田駅の駅員に訊ねた。
「成田山に登りたいんですが、どう行ったらいいのでしょうか?」
 これは本当にあった話。
(内田保夫「成田山新勝寺」)

本当に成田山ガイドに徹した作品でしたね。いつもの京成電鉄ものみたいに重くなく、気楽に読めました。佐々木さんの『母のいる遠景』が長く重かったので、適度な息抜きになりました。さあ、次、行こう。もう十月だ。

 
▼ 半島・うたかた   引用
  あらや   ..2025/10/05(日) 16:25  No.1231
   坂道左下に見えていた川添えの家が消えて、視界に広い高原が開けてきた。市尾町から約四十分、いくつかのトンネルを列ねた海岸ばかり続いた道が、ここではじめて海を失い、起状のゆるやかな畑地と森林と草原の斑な原野が出現した。
「へえ、半島だから海ばっかりと思っていたけど、こんな高原があったんだ」
 松永は車のスピードをゆるめた。
「うん、この辺はたしか婦宝高原とかいって、戦後、開拓者があの山の近くまで入植したらしいんだが、今では大分離農しているようだよ。潮風が強くて余り出来がよくないってさ。婦宝――つまり『婦人の婦に宝』って書くんだけどなかなかシャレてるよな」
「如何にも高原って感じじゃないか。床丹高原か、こりゃいいよ」
(金澤欣哉「半島・うたかた」)

いやー、激レア地名! 「市尾」でも「婦宝」でも、ヤフーで引くととんでもない答えが返ってくる。かろうじて「床丹」から別海町方面の答えの道筋が見えてくるけど、なんかスパーッとした検索にならない。生成AIを多様するようになってから一段とひどくなったような気がする。(以前、『たんぷく物語』を調べていて、「大阪福島焼肉とっぷく」が出て来た時には笑ってしまった。) 金澤さんの物語は、まだまだ未知の北海道を私に教えてくれます。

 
▼ 月光   引用
  あらや   ..2025/10/11(土) 11:18  No.1232
   倶知安峠に夕暮が迫っていた。私はヘッドライトを点灯し、ハンドルを握りなおした。サーモンピンクの残照の中で羊蹄山が、あぐらをかいて坐っている父の姿とオーバーラップして「大丈夫だ、落着いて来い」と言っているように見え、私は思はずアクセルを強く踏んだ。トンネルをぬけ、カーブを曲ると、羊蹄山の上に白い月が光っている。国道を左に折れると懐かしい実家への道だ。
(流ゆり「月光」)

倶知安峠。トンネルをぬけ、カーブを曲ると…

私も懐かしいです。今朝の最低気温、山麓は氷点下になったみたいですね

 
▼ 「人間像」第139号 後半   引用
  あらや   ..2025/10/12(日) 09:46  No.1233
  「人間像」第139号作業、終了しました。作業時間は「53時間/延べ日数13日間」。収録タイトル数は「2705作品」です。120ページですから、こんなものでしょう。裏表紙は前号と同じですので省略します。

★半年ぶりに自宅で校正することになった。この半年の間に細川・羽田・村山と三つも政権が変わった。今度は自・社連合だと言う。油と水がどのように混じり合うと言うのだろう。まったく訳の判らない世の中になったものだ。碌なことにはならないであろう。
★長い間連載して来た朽木の『柚木完三の青春日記』が最終回となった。戦後まもなくの古き若き時代が懐かしく想い出され、好評であった。(針山)
(「人間像」第139号/編集後記)

引用はしなかったけれど、『柚木完三の青春日記』には感じるものがありました。復員して来てからの一年間、職を見つけるための漂流の日々をこう淡々と語れるところが朽木さんの魅力ですね。さあ、140号台に入ります。



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