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No.1252 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第143号 前半   引用
  あらや   ..2025/12/10(水) 18:13  No.1252
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 昭和四年を迎えると、はやばやと中野が前田を訪ねてきた。おそろしく太い声で、ドスのきいた蛮声であった。前田は、中野が自分より二つも三つも年長者のような気がした。「目下、学内でレガッタ(競漕)をつくろうという話が出ているけれど、どこの大学でもやっていることで、わが法政が今更追随するのは馬鹿げていると思う。英国では、ケンブリッジ、オックスフォード両大学のレガッタは有名だが、双方ともだいぶ前から航空部をつくり、スポーツ航空として競技会も催しているそうだ。そこで法政としては、前田岩夫二等飛行操縦士を中心に航空研究会をつくり、わが国学生航空の先鞭をつけようじゃないか」
 前田は思わず、踊り出したいほどの喜びを隠そうとせず、中野の両手を握りしめ、「その言やよしだ。その時節の到来を待っていた。ありがとう。お互いに同好の士を募りスクラムを組んで前進しよう」
(平木國夫「天翔ける学徒たち」)

第143号作業、始まりました。『天翔ける学徒たち』はじつに原稿用紙115枚の大作で、作業に四日間もかかりました。今号は、この後、佐々木徳次『奈良公園にて』、丸本明子『施餓鬼法要』、細川明人『雨の日には傘を取って』、山根与史郎『夜空の雲』、内田保夫『墨染に舞う』、針山和美『半病雑記』などですが、特筆すべきは、流ゆり(佐藤瑜璃)の『わが心の沼田流人』が始まったことでしょうか。


 
▼ 夜空の雲   引用
  あらや   ..2025/12/17(水) 17:44  No.1253
   家に帰り着いて、省三が初めて加代子に会った時、思ったよりも元気そうなのに意外な感じさえした。血色もよくって全体にふっくりした様子は、豊かな頭髪を除けば腕白小僧のようだ。省三は、加代子を病気の療養と聞かされていたから、血の気も失せた青白の、頬をもこけた憂色のどんな人が来たものかと思っていたら、腕白小僧が、腕白小僧のような現れ方に、拍子抜けというよりはポーンと一本胸でも突かれたように、すぐには椅子から立ち上がれなかった。
(山根与史郎「夜空の雲」)

「瞋恚」「衷情」「慫慂」「繽紛」「纏綿」… 「人間像」143冊の歴史の中でも初めてお目にかかるのではないか…という漢語たちの大吹雪ではありました。しかも、『天翔ける学徒たち』の115枚を越える原稿用紙142枚の力作とあっては、なかなかに骨の折れる五日間ではあったのです。さあ、もう一息。年内に143号、終わらせるぞ。

 
▼ 墨染に舞う   引用
  あらや   ..2025/12/21(日) 14:51  No.1254
   (おかしい。おかしな話だ) 内山は呟く。
 それは後白河法皇の大原行幸が本当か、ということだった。
 平家物語を何度読み返しても、寂光院での法皇と建礼門院が出会う描写のところにくるとひっかかる。
 物語に出てくる京都でのゆかりの場所は数多くある。だが、それらは一つの部分であり、一つの挿話でしかない。それなのに物語は「巻第一」から「巻第十二」と、ただの見出しできて「小原入御」と「小原御幸」のある項の見出しを「灌頂巻」と特別扱いにしたのか、ということだ。
 もう一度、機会があったら寂光院のそれらしい場所で、なぜなのかを考えてみよう、と思っていた。
 いま、そのような場所にたったが、事実を識ることは出来なかった。八百年という歳月は、あまりにも遠いことなのか。
(内田保夫「墨染に舞う(三)」)

いやー、第三回はいつもにも増してど迫力でしたね。けっこう、ボディーブロー、効いた。この心地よい疲れをもって、沼田流人に行こう。

 
▼ わが心の沼田流人   引用
  あらや   ..2025/12/22(月) 12:10  No.1255
  今、その父の作品を読んでみて私が感ずる事は、残酷で惨ましい内容でありながら、その文体はとてもロマンティックでエキゾティックで流麗でありエスプリがきいていて、テーマがプロレタリア文学でなければ、素敵な文芸作品になっていたかもしれないという事です。父にとって初めての単行本であったそうです。
(流ゆり「わが心の沼田流人」)

普通の読解力と多少の文学的センスがあれば、誰でもこう感じる。『血の呻き』にプロレタリア文学を感じるなんて余程の馬鹿だ。

S あの方のグループで、発禁本なんか集めているんですが、その中に「血のうめき」があるんです。タコ部屋のことでないのが、それは譲らないけど、娘さんなら見せるというんで私行ったんです。そしたら、素敵な装丁で、エキゾチックな、本の仕上げの裁断していないものですから、こうボサボサになっていて。
(「同人通信」231/北海道同人会・百四十三号合評会)

ここでも「掘る会」か… どうしてこんな連中のところには『血の呻き』があるんだろ。猫に小判。豚に真珠。

 
▼ 「人間像」第143号 後半   引用
  あらや   ..2025/12/25(木) 06:47  No.1256
  「人間像」第143号(164ページ)作業、終了しました。作業時間は「80時間/延べ日数19日間」。収録タイトル数は「2808作品」です。

★今号は久し振りの平木の長編に加え、流ゆりが「父・沼田流人」を連載することになった。プロレタリア文学盛んの時代、「監獄部屋」を描いて華々しく文壇に登場しながら、挫折していった父親像を娘の視点で描こうとするもので、文献的にも貴重であり、意義が大きいと思う。
(「人間像」第143号/編集後記)

この時点で、同人の誰もが『血の呻き』を読んでいない。読んだのは武井静夫『沼田流人伝』ただ一冊というお粗末さであったことを生涯忘れないでおこう。

別に、正月がめでたいということもないので、今日から第144号作業に入ります。でわ、よいお年を



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