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No.1278 への▼返信フォームです。


▼ 白の点景   引用
  あらや   ..2026/03/06(金) 14:21  No.1278
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 毎年一冊ぐらいの作品は書けるだろうと思っていたが、甘い考えであった。健康と精神の充実がなければ一日一枚平均の執筆さえも無理なことがわかった。
 この集に入れた作品は、題名にした「白の点景」を除いて平成四年秋から五年春にかけて書いたものである。かなりのハイペースであった。ところが五年の春に慢性肝炎が再発すると、とたんに書けなくなってしまった。書けないほど休力が衰えてしまったわけではなかった。無理をして悪化させては元も子もなくなるという懼れから差し控えたと言ったほうが良いかも知れない。
(針山和美「白の点景」/あとがき)

『白の点景』を進行中です。針山さんの気力、体力が落ちているので昔のような大胆な改稿は行われていないことはわかっているのですが、万全を期して原文の一字一句から起こしています。「人間像」で作ったファイルをポンとコピーして一丁上がり!というような仕事はしていません。

 治すことが第一、治れば書ける――そんな思いから控えたつもりだった。ところが闘病生活が長びくと、体力も気力も時間に比例して衰えて行くことを知らされた。そしてとうとう丸々空白の三年が過ぎた。まだ完全とは言えないが幾らか力が戻ってきた感じがあったので、書きかけのままになっていた「白の点景」を三年ぶりに書き上げた。
(同書)

倶知安中学五年時の処女作『三年間』から最後の小説『白の点景』まで、ついにここに辿り着いたという想いでいっぱいです。


 
▼ 湖畔の一夜   引用
  あらや   ..2026/03/07(土) 11:56  No.1279
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 暮れなずむ空を見つづける文佳の姿は化石のようであった。橙色の輝きが、ゆっくりと真紅に染まりはじめ、やがて速度をましながら暗赤色へと変化していく。するとそれまで青く見えていた遠くの山並みが次第に黠ずみ、ついには真っ黒なシルエットになった。そして湖水に映っていた山影が、いつの間にか溶けるように水面に消えていく。消えていくのは自分だと文佳は思った。
(針山和美「湖畔の一夜」)

針山さんの追悼号には、針山さんを象徴する作品として『冷たい一夜』、『天皇の黄昏』とこの『湖畔の一夜』が再掲載されています。『冷たい一夜』はわかります。戦後間もなくの投稿雑誌「文学集団」で入選第一作をとった作品。針山和美(春山文雄)の名を全国の文学青年たちに知らしめた一作ですから。『天皇の黄昏』もわかる。昭和天皇の崩御から間もなくに世に問うた一作。針山和美という人間がどういう人間かを強烈に印象づけた作品ではありました。追悼号には無くてはならない。
しかし、『湖畔の一夜』はよくわかりません。この作品が示す〈針山和美〉とは何なのだろう。これよりは、私は、例えば、針山さん最後の小説『白の点景』の方が、戦争や病気の時代をくぐり抜けて来た文学者の最後に到達した地点として意味を感じるのです。追悼号に残すのなら『白の点景』と今でも思うことがあります。

 
▼ K町   引用
  あらや   ..2026/03/10(火) 18:09  No.1280
   バスがK町の駅に着いた。ここから札幌までは一直線だった。
 駅の売店で缶コーヒーを買った。ここだけは昔のままだった。男子生徒に囲まれ、はしゃいでいた有頂天の自分を想いだす。立ったままコーヒーを飲む。壁に貼られた観光ポスターを見ていると突然声をかけられた。
「緒川さんじゃないか?」
(針山和美「はじけた光」)

 夜具とわずかな生活用品を携え、K町の駅に降りたのは三月末だった。めざすA部落はそこから更に十五キロも先で、交通の便はなかった。当時PTA会長の鈴木が馬橇で迎えに来ていた。
(針山和美「山あいの部落で」)

「無理するなよ。どうせついでだから」
 優しそうな笑顔だった。楽をしたい誘惑に負けた。
「では、申し訳ありませんが、バス停までお願いします」
「どこまで?」
「K町まで……でもバス停まででけっこうです」
「どうせおれもK町まで行くんだから、家まで送るよ」
(針山和美「夫の裁判」)

こんなに「K町」を舞台にして小説を書いた人、他に知らない。針山和美がいない〈後志の文学〉なんて、もうポンコツだと私は思っています。

 
▼ 白の点景   引用
  あらや   ..2026/03/13(金) 18:37  No.1281
   「お母さんだけど、どうしたの? 広克さんと一緒じゃないの」
「広克さんが大変なのよ。サイクリングの途中で急に倒れて、いまK病院にいるんだけど、札幌の家に電話しなくちゃならなくなって、それで番号忘れたものだから……」
「ああ、あんたの手帳ね。どこにあるの?」
(針山和美「白の点景」)

ここにも「K」ですね。「人間像」をやっている時には気づかなかったのだけど、この単行本『白の点景』って佳作揃いではないだろうか。『愛と逃亡』みたいな爆発作はないけれど、一つ一つの作品が、合評会の意見も率なく取り入れて、さらに磨きがかかっている。作業していて楽しかった。
「人間像」作業の時は、例えば、春山文雄『白の点景』を終えたら、すぐ後には日高良子『八百字のロマン』が待っている…という流れがありますから、あまり一つの作品に酔ったり浸ったりしていては緊張感が途切れるのですね。せいぜい「司書室BBS」に書くくらいがちょうど良く、てきぱき書いたらすぐ作業に戻らなければならないのでした。

その「司書室BBS」。ある会社のレンタル掲示板を借りているのですが、その会社から今年の九月いっぱいでレンタルを打ち切るという連絡が来ています。もう、こんなの、時代遅れなのかな。ブログの類いは嫌いなので、なんとか掲示板の雰囲気が残る方法を考えたいと思います。



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