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No.1019 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第118号 前半   引用
  あらや   ..2023/12/04(月) 17:37  No.1019
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 会社の帰り、気の合ういつもの五、六人で、スナックバーに寄ることがある。雑談をしたり、カラオケをやったりと言うたわいないものだが、これが純平たち安サラリーマンの簡便なストレス解消法になっていた。
 この日も、誰いうとなしにいつものメンバーが集まり、行きつけのスナック『ブルーバード』に来ていた。上司の悪口や同僚の噂ばなしをつまみに安い焼酎やウイスキーの水割りを飲むのだ。当面の話題が尽きると、カラオケをやったり、それに合わせて踊ったりする。いつもなら、純平がマイクを握ることが多いのだが、この日は若い連中が先に踊り始めたので、純平はいささか手持ちぶさたであった。
「川上さん、踊りましょうか」
 立木英子が声をかけた。
(針山和美「雪が解けると」)

第118号作業、スタートしました。久しぶりの針山作品。この『雪が解けると』は、三年後、単行本『天皇の黄昏』に『春の淡雪』とタイトルを変えて発表されています。私は『春の淡雪』の方を先に読んでいますから、今回の雑誌発表形の『雪が解けると』にはかなり驚きました。結末部分が大胆に書き換えられている。同じ話で二度楽しめる。


 
▼ 定年退職   引用
  あらや   ..2023/12/07(木) 17:51  No.1020
   ところが、ここ二、三年急に多作になった。多作と言っても年に三作ほどの割合に過ぎないが、それまでに較べると三倍の量になる。根気も体力も衰えて来るこの時期に俄に書き出したものだから、口さがない連中は無意識裡に死期を察してのことではないかと軽口を叩く始末である。しかし、違うのだ。長かった教員生活もいよいよ今年限りで、来年からは待望の執筆人生が実現出来る訳だが、突然書き出すと言っても仲々大変だろうから、その助走訓練をして置こう、と言う思惑から多少無理をして書き始めたのである。
(針山和美「天皇の黄昏」/あとがき)

たしかに、この第118号『雪が解けると』を皮切りに針山氏は毎号発表ペース(第119号は私の大好きな『嫁こいらんかね』だ!)に入って行くのですが、同じようなことは千田三四郎氏にも云えて、数年前に北海道新聞社を定年退職してからは爆発的に書きまくっていますね。そういう「人間像」充実の影で少し心配なことが…
デビュー以来、毎号、長い作品を精力的に書き続けてきた針田和明氏の作品が第116号『雄冬の冷水』を最後にぱたっと止まっているんですね。作業をしていて何か変だな…と感じていたのですが、数日前に、ああ針田氏がいないんだ…と漸く気がつきました。

 
▼ 歌ふことなき人々   引用
  あらや   ..2023/12/07(木) 17:54  No.1021
   そろそろ店を開けようか。閑古鳥が鳴きっぱなしのここには、どうせ客はこないだろうが、さ、気を入れてやろうじゃないか。今日でこの小樽での仕事はおしまい。それなりにけじめをつけなければな。……あいつのせいで店じまいにまで追い込まれたけど、思い直せば、生まれ故郷の東京でもうひとふんばり、〈理髪床 江戸屋〉の看板をあげる踏ん切りがつけられたのも、裏返せばあいつのおかげだ。根も葉もない中傷記事で商売あがったり、いちじは夫婦一緒に死んで、あの記者野郎に崇ってやりたいと恨んだが、いまとなっては降りかかった禍を福に転じさせるため、東京で何がなんでも頑張りたい、そんな意気込みでいっぱいだ。
(千田三四郎「歌ふことなき人々」)

もうこれは、千田作品の中でも一、二を争う名作だと私は思っています。ついに、ライブラリーに入ったことに感無量。

 
▼ 百一ほら話   引用
  あらや   ..2023/12/07(木) 17:57  No.1022
   百一というのはアダ名で、田中勝男という名前の馬喰である。
 その人は「百語るうちにホントは一つあるかどうか」というほら吹きなので、名前を呼ぶ者がなく『百一』でとおっていた。ところが、
「百一つぁん」と声をかけると、
「ほい」 気楽に答える。
 だから斎藤昭は最初アダ名とは知らず、一体これはどういう意味なのか珍らしい名前だなあと思っていた。
(朽木寒三「百一ほら話」)

前号の『マルホほら話』に続いて、今度は『百一』のほら話。面白いなあ、朽木さんは。斎藤昭シリーズは永久に続いてほしいと願っています。

 
▼ 「人間像」第118号 後半   引用
  あらや   ..2023/12/11(月) 11:40  No.1023
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「人間像」第118号(134ページ)作業、完了です。作業時間は「60時間/延べ日数10日間」、収録タイトル数は「2224作品」になりました。

本の裁断が狂っていて、画像データ作りにけっこう時間をとられました。その最たるものが裏表紙。半日くらい悪戦苦闘したわりには、まだ納得はしていない。活字が細かいので読みにくいと思います。こういう内容です。

 曲り角

 丸本明子は昭和三十年代『人間像』に参加し、五十号の前後に毎号発表し続けていたが、子育てにかかる頃から中断し、百号が過ぎて再び参加、御存じのように毎号欠かす事なく発表し続けて来た。旺盛な制作力と言うべきである。
 彼女は日常生活の中では滅多に遭遇しない悲劇のひと駒を、また超現実的な世界を好んで描く。遇いたくない現実に遇わねばならない悲劇の主人公達は、その辺にいつもいる普通の市井人なのである。ときには残酷とも言える結末が何の予告もなしに訪れて、読者を震憾させる。日常生活の中に存在する不条理なる現実を丸本さんは書きたいのだと、僕は自分なりに解釈している。知っての通り丸本さんは沢山の詩集を持つ優れた詩人だが、その詩人らしい冷徹な感覚とともに人間への温みのこもった小説である。(針山和美)



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