| Aさんはぼくの前任地でもあった京極町の郵便局に永年勤め、退職後札幌に移り住んだ一家で、夫人が妻と書道仲間という間柄である。そんなわけでぼくとAさんには共通の話題もないものだから、京極時代の思い出話などして間をもたせていたが、思いがけなく共通の話題がAさんのほうから出た。 「先生とおなじように小説を書いていた大森先生という人がいたと思うんですが、知りませんか?」 「ああ、知っています。知ってるといっても直接会ったことはありませんが、むかし鈴川の中学校に勤めていたことがあると聞いています」 「私は余市時代に習ったんですが、若いときから小説を書いていたそうで、その後どうしたかと思って……」 「もう、かなり昔になりますけど、何度か芥川賞の候補になって作家生活に入ったようです」 「じゃあ小説家になられたんですね」 「そうですね。何冊か本もだされていたし、文芸雑誌にも発表しておりましたから」 「いまも書いているんですか」 「さあ、最近はあまり見かけませんね。実はその先生には弟さんがおられて、その人も一時期小説を書いていてぼくらの雑誌に入ったこともあるんですけれど、その弟さんの話ですと、兄さんは今は別のペンネームで書いているそうです」 ここでいう大森先生とは大森光章こと大森倖二氏であり、弟さんとは今出力弥こと大森亮三氏のことである。ぼくもそれ以上のことは知らなかったので、この話題も長くは続かなかった。 (針山和美「ボボロン雑記」)
へえー。意外な所で、意外な人とつながっちゃった。
道立図書館から借りた針山作品、先ほど読み終えた「ボボロン雑記」で全冊読了です。慌ただしかった(昔の人はいっぱい書くので、読むのに時間がかかる…)けれど、無事返却日の二日前に読了できてよかった。道立は全作品を所蔵していたので、処女出版の「奇妙な旅行」から最後の「ボボロン雑記」まで年代を追って読めたのが大変ありがたがった。
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