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No.415 への▼返信フォームです。


▼ 遠い日の戦争   引用
  あらや   ..2017/11/15(水) 13:15  No.415
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 大久保ミヨ婦人の述懐によれば、夫の靖は戦時中南方派遣軍の一員であつた。ある時、米軍の飛行機が靖等の部隊近くの森の中に不時着したのであつた。その時、まだ若いその搭乗員を銃殺する様靖は上官より命令された。理由など考える事は靖等には許されなかつた。靖は忠実に上官の命を守り、ある夕暮時草原で米兵を銃殺した。敗戦直前靖は内地え帰還した。そのまゝ家に落ち着いた。それがある時、靖の小さな静かな家庭の中え米兵と警官が押しかけ、無言の抵抗を示す靖を引き連れた。その時、ミヨも紀子も側に小さく震えながら、それを見守つていた。妻も子も何もかも不可解であつたのだ。靖はすつかり青ざめて一つも言葉を発しなかつた。その時すでに死を覚悟していたのかもしれない。
(葛西庸三「傷魂の彷徨」)

これは、現在デジタル復刻作業中の「人間像」第20号に収められた葛西庸三氏の作品です。ちょうど『遠い日の戦争』を読んでいた時だったので、「へえーっ」と思ってこちらを引用してみることにしました。第20号の発行日は昭和27年(1952年)4月。『遠い日の戦争』が昭和53年(1978年)の雑誌「新潮」連載ですから、およそ四半世紀の時間を隔てて何か呼び合う感情を感じました。

大久保紀子には、また何処かで逢いたいと思った。


 
▼ 破獄   引用
  あらや   ..2017/11/18(土) 09:12  No.416
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 宇都宮駅をすぎて間もなく、浦田は、佐久間が片肘を窓ぎわにのせて頰杖をつき、眼をとじるのを見た。浦田は眼をみはった。前手錠をかけられた佐久間にはできぬ姿勢であった。驚いて手首をみると、一方の手は膝の間にたれ、手錠がはずれていた。浦田は他の看守とともに佐久間を見まもっていたのに、いつの間にか手錠をはずしていることに愕然とした。
(吉村昭「破獄」)

『破獄』、また読み返してしまった。『羆嵐』と同じで、ちらっとでも読み始めると、そこからラストまで読んでしまう。昭和二十年前後の世相を描くのに、これ以上の題材ってそうはないといつも唸ります。

 二人の看守が顔色を変えて立ちあがり、
「足錠をかけ、縛りましょう」
 と、言った。
 浦田は、看守を制すると、
「佐久間、ちゃんとかけとれ」
 と、言った。
 眼をあけた佐久間は、窓ぎわから片手をおろして手錠をはめ、
「手が疲れたのではずしただけですよ。主任さんにはお世話になったし、ご迷惑をかけるようなことはいたしません」
 と言って、頭を壁にもたせて再び眼をとじた。



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