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No.473 への▼返信フォームです。


▼ 五の日の縁   引用
  あらや   ..2018/10/06(土) 06:49  No.473
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 浴衣を着た姉は人中で目立った。私達の傍を通り過ぎて行く人が、きまって姉のほうへ視線を泳がせる。それが私の予想といつもぴたりと重なるのであった。姉に連れられ、そうして人の目に立っていることは、肉体的な快感をともなって、私の自負心を満足させていたように思う。私が当時縁日を好んだのは、其処で子供なりのささやかな買物が出来るという以上に、姉と並んで、注がれている人々の目を感じながら歩くという、快感のためであったかも知れない。どちらかといえば無口で。神経質だった姉が、夜になって浴衣を着、きりっと帯を締めると、急に大きく脹よかになった。そうして大きくなった姉に、私は快い優しさを覚えた。湯上りに浴衣を着た姉は、何故か私に、露に濡れた大輪な花を思わせた。私は姉を、たいそう美しいと思っていたのである。
(竹内紀吉「五の日の縁」)

小岩界隈、五の日の縁日風景で始まる物語は、やがて、通りの向こうからやってくる姉と私の登場でその話が動き出す。

 千葉の内海の何処も、まだ埋め立てなどされておらず、小岩から三、四十分も総武線に揺られていれば、松林を越して青い海原の拡がっている光景を跳めることが出来た。都心に住む者にとっては、千葉駅に至るまでの沿線の小駅は、どの駅も潮干狩の出来る海岸であることで名が通っていた。「稲毛」や「幕張」という地名に、盛夏の光や貝の臭いを思い出すのは私ひとりではないだろう。
(同書)

端正な文体。きらきらとした夏の陽が照り返す道を歩いていた記憶は私を変革してくれると思います。


 
▼ サルビアの苗   引用
  あらや   ..2018/10/06(土) 06:53  No.474
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――どのようにお伝えしても、気持ちを受け入れて戴けないことはわかっていますが、身辺を清算して、その上で綾さんと結婚したいのです。
――身辺を清算?
――はい、妻とは離婚します。綾さんを知る前から話し合っていたことなのです。
(竹内紀吉「サルビアの苗」)

いやー、どきっとした。二十年の歳月を越えて、あの『五の日の縁』の男が帰って来たのかと思ったよ。

いかに『五の日の縁』が竹内さんにとって大切な作品だったのかがよくわかりました。『五の日の縁』の前に『サルビアの苗』を読んではいけない。この二つの作品だけは読み流してはいけない。
『日傘の女』もアップしました。これも、『反面教師だった父』や『母の初恋』を飛ばして読んではいけません。いちいちうるさい!と怒られそうだが、味わいってものがあります。竹内紀吉さんの六十五年間の生涯を読み飛ばしてはほしくはないと思いました。

作品のアップは今少し続きます。

 
▼ 佐藤さんとの日々   引用
  あらや   ..2018/10/13(土) 16:07  No.475
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 佐藤正孝さんと初めて会ったのは一九五八年、私が十八歳の時である。日記をつける習慣のない私が四〇年以上前の年を正確に言えるのは、後に書く読売新聞の一件から、同人雑誌「短編小説」に加わることになった年だからで、佐藤さんは玉虫八郎の名でこの雑誌に小説を書いていた。
(竹内紀吉「佐藤さんとの日々」)

その玉虫八郎氏も作品を発表している同人雑誌「短編小説」から、竹内氏の五作品『猫』『少年時』『午後の車中にて』『父のゐる庭』『白樺のみえる窓』をライブラリーにアップしました。1960年代、竹内氏の青春期の作品群です。『父のゐる庭』や『猫』には、後の竹内作品を予感させる力がすでに発芽していることを見てとれます。この力とは、若い日の針山氏や渡部氏が持っていた力でもあることに気がつきました。そういうこともあって、私は『少年時』という作品がお気に入りです。

 
▼ 「街を歩けば」へ   引用
  あらや   ..2018/10/13(土) 16:12  No.476
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おそらく、両国高校時代のガリ版や自筆原稿を除けば、印刷媒体で発表された〈小説〉作品はほぼカバーしたのではないかと思います。このまま、浦安タウン誌「ばすけっと」連載の『街を歩けば』シリーズや、「事実と創造」連載の『図書館を支える人々』に突入することも考えたのですが、心の中には「少し落ち着け」という声もあることも事実です。少し、私自身が何が何だかわからなくなってきているところもあるので、ここは、一度「人間像」に戻って頭を冷やしたい。

竹内氏は、人間の観察眼がとても鋭いと感じます。この「佐藤さんとの日々」が典型なのですが、一見何気ない佐藤正孝氏の追悼文に見えるのですが、『五の日の縁』〜『サルビアの苗』と読み進んで来た身には、これが『五の日の縁』以来のさらなる新展開に思えてしょうがない。あと一歩、間合いを詰めるときっちり小説作品になってしまうような緊張感があります。竹内氏の〈エッセイ〉編再開にもご期待ください。



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