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No.685 への▼返信フォームです。


▼ 佐左木俊郎   引用
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:03  No.685
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縁あって、今、佐左木俊郎という作家の作品を読んでいます。

〈佐左木俊郎〉で検索しても小樽図書館には『モダニズム・ミステリ傑作選』というアンソロジー一冊しか所蔵してないようなので、とりあえずそれに収められた『猟奇の街』という作品を読んだ。あまりピンと来ませんでした。というか、私には〈モダニズム・ミステリ〉という概念に興味がないみたい。萩原朔太郎の〈ミステリ〉というのも読んだけど、ますますピンと来ない。

で、『北海道文学全集』に〈佐左木俊郎〉が収録されていることに気がついて探してみたら第十二巻に『熊の出る開墾地』がありました。(小樽図書館の検索システムはなぜ『熊の――』がヒットしなかったのだろう) これが良かったんですね。さっそく道立図書館からあれこれ取り寄せて、今、読んでいる次第です。

沼田流人と同時代ということなんだけど、なんとなく、菊池マツヱを捨てて東京に走っていたらこういう感じの人生だったのかな…とか妄想しました。


 
▼ 土竜   引用
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:08  No.686
   「山は、まったくいいですね」
 と竜雄は、あらためて四辺を見廻すようにした。
「え、山はね。宜(い)がすちゃね……」
「どこを見ても、みんな緑だ。実に新鮮な色彩だ。それに、土の匂いがするし……。ほんに、田舎に限るな」
 彼は独り言のように言った。
(佐左木俊郎「土竜」)

最初の『芋』はふーんという感じで読み始めたのだけど、次の『土竜』になって、おーっとこれはただ者ではない…と感じましたね。都会帰りの人間を出すと、東北の土の匂いがよりぶーんとしてくる。これで最後まで読んでいけると思いました。

 
▼ 熊の出る開墾地   引用
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:11  No.687
   「ほおら! しっ!」
 馭者が馬を追う声がして、ぎしぎしと車体の軋めく音が近付いて来た。間もなく樹の陰から馬の首が出て、胴が見当の上を右から左へと移動した。若い農夫は激しく動悸する胸で、猟銃にしがみつくようにして引き金に指をかけた。約三十秒! とそこへ、左から右へ人影が現れた。アイヌであった。
 若い農夫は驚異の眼を見張り、ほっと溜め息を吐くようにして、猟銃を自分の足許に立てた。アイヌはそこに立ち止まって、若い農夫の見当を遮ったまま、珍しい馬車での通行者を、いつまでも見送っていた。
(佐左木俊郎「熊の出る開墾地」)

アイヌはこの場面一度きりの登場。話の流れからいっても、ここでアイヌが出てくる必然は何もないのだが、妙に印象的なんですね。物語全体が引き締まる。昭和四年にこんな技使うなんて凄いや。

 
▼ 或る部落の五つの話   引用
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:15  No.688
   祠守りは田舎医者の細君だった。
 最初、夫の病中に彼女は夢を見たのだった。――丘の雑木林の中に一本の大きなツバキがあり、その下に泉がある。そのツバキを神体として三週間の礼拝を続け、泉の水を飲んで病夫に飲ませるなら、夫の病気はたちまちに治るであろう。――という竹駒稲荷大明神の夢枕なのだった。彼女はその夢枕の言葉に従った。不思議に夫の病気は、一枚一枚病皮を剥ぎ取るかのように治って行った。彼女は早速、その場所に、そのツバキを親柱として白木のささやかな祠を結んだのだった。同時に彼女はその奇蹟を村に流布した。彼女は人間の願いを竹駒稲荷大明神に伝え、大明神の言葉を人間に受け次いでやると言うのだった。
(佐左木俊郎「或る部落の五つの話」)

農民文学なんだけど、その中に必ず謎解きの要素を織り込んでくるというのは才能なんだろうな。それがフルに発揮されたのがこの『或る部落の五つの話』。ラストには驚いた。もう一度最初に帰って読み返しました。

 
▼ 機関車   引用
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:18  No.689
   「機関手さん! 御散歩?」
 靄の中から病気のかよわい女の声がした。
 吉田は口笛を止めて振り返った。鼠色の女が姿が、吉田の胸の近くまで、跳ねるようにして寄って来た。
「機関手さん! 済みませんが、私を送って行って下さらない?」
 顔を伏せるようにして、女は、袂の端を噛みながら小声にいった。白粉の匂いと温泉の匂いとが、静かに女の肌から発散した。
(佐左木俊郎「機関車」)

感じ入った。

 
▼ 芽は土の中から   引用
  あらや   ..2023/12/22(金) 11:21  No.690
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「今日は、ほんで、なんぽ取られたのしさ?」
「七円だもの。ほんのちょっこら來て……」
 お茂伯母が熊三郎に代わって言った。
「七円とは、また高えなあ」
「安井医者だちから、俺は安いんだべと思ったら、安いどころか、……安井医者でなくて高井医者だもなあ」
(佐左木俊郎「芽は土の中から」)

暗い結末が多い佐左木俊郎の作品。なぜこの作品のタイトルは〈芽は土の中から〉なんだろうとしきりに思った。〈芽〉とは?

この小さな謎をかかえて、『狼群』に入って行こう。



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