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No.984 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第111号 前半   引用
  あらや   ..2023/06/02(金) 18:54  No.984
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 ここに一冊の大学ノートがある。五冊で百円という特売用の平凡なノートであるが、これが福田儀一の、ベッドに遺された、死の床での貴重な記録なのである。
(上澤祥昭編「一冊のノート」)

第111号作業、開始しました。第111号は同人・福田儀一氏の追悼号。ページ数も210ページと久しぶりに分厚い感があります。今日も、技術的な問題で丸一日『一冊のノート』と格闘していました。

今、庭のすずらんが咲いています。


 
▼ 笹舟まつり   引用
  あらや   ..2023/06/08(木) 17:09  No.985
   「もう、行くの」
「十三時二十分が発車なんだ」
 高い上背をそびやかし、振り返ろうともしなかった。ドアが締まる震動で、人形がまたうなづいた。加代は漠然とした不安で、壁の列車時刻表に目をやる。純一がうっかり洩らした十三時二十分が、小樽方面行きにはなくて室蘭方面に出ている。加代はミシンに両肘をのせて、ガラス窓越しのしらじらしい陽光に気後れをおぼえた。
(千田三四郎「笹舟まつり」)

ここのところ書き続けていた「咲次郎もの」ではない千田作品。針山氏以来の黒々とした〈支笏湖〉の登場にはおお!と興奮しました。しかも、この作品には〈山線〉が走っているではないか!

作業はすでに次の作品、針田和明『運河のある街』に入ってます。第111号は、このあと、久しぶりの日高良子さんの作品なども見えてますね。楽しみ。

 
▼ 運河のある街   引用
  あらや   ..2023/06/09(金) 18:03  No.986
  犬ばあさんがいたのは、この辺りだったな。何十頭という犬をつれて、街の塵芥箱をあさって、クシャンクシャンとくしゃみをしては犬に食べ物をやっていた。ここに堀立て小屋を造り、大きな鍋で魚や得体のしれない物を煮て、犬にやっていた。あの犬ばあさんが、小屋や犬と共に、ある日、忽然と消えてしまった。犬殺しがきて、犬ばあさんまで注射されて殺されてしまった、と子供達は噂しあったものだった。人間も、倉庫も、船も、みんなかわっていく。
(針田和明「運河のある街」)

いつもの札幌ものとはちがって、舞台が小樽だと妙にしんみりしますね。針田さんが住んでたところ、小さな山間ひとつ挟んで、針山さんが住んでいたところに近いんじゃないかな。子ども時代に接近遭遇してるかもしれない。

 
▼ ハッピーの嘆き   引用
  あらや   ..2023/06/12(月) 11:55  No.987
   ボクが有川家にやってきたのは、ちょうど三年前の春のことであった。
 長男の慎一君が由美子さんと結婚して、この家から出て別居することになったので、そのあとの侘しさを慰めるため――つまり、慎一君の優しい孝心が動機で、ボクが飼われることになったという訳である。
 慎一君の大学時代の友人が、南方から鳥類を輸入する会社に勤めていて、そのつてでシンガポールから日本に着いたばかりの、生後五か月目のボクに白羽の矢が立ったのであった。
(日高良子「ハッピーの嘆き」)

『ハッピーの嘆き』の作業をしていた先週は楽しかった。今回も素晴らしい日高作品を読むことができた。創刊の昔から感じていることだけど、人間像同人に日高さんがいるのといないのでは、〈人間像〉という存在の重みがちがう。得がたい人。

 
▼ 私の『山頭火』   引用
  あらや   ..2023/06/17(土) 16:32  No.988
  いや、驚いた。「山頭火」の評論だと思ってたらたらワープロ作業を続けていたら、

 行乞を始めた初日に、餞別の金を全部飲みほした山頭火は、次の日重い身体をひきずり乍ら、本心と思われる弱音をはいている。その日の宿賃と一椀の食事にありつくために、とにかく身体を動かさねばならぬ。
(神坂純「私の『山頭火』」)

この次の行は、このように展開される。

 債鬼に追われて、失業中の友の下宿にころがり込んだ私も、友がさし出してくれる一椀の雑炊に、行乞の僧と同じ思いを抱いたものだった。
(同書)

ひえー、こういう『私の「山頭火」』だったんだ。

栄養失調の前兆がみえてきた頃は、このまゝ死ねるものならとも思ってみた。しかし私には、やらなければならない仕事が、これから生れ変って、やらねばならぬ仕事が山程あった。簡単に死を考えてはいけないと、何度も自分に云いきかせた。
 山頭火が、一日の喜捨をその日の中に飲み尽すのは、明日の働きに迷いが出ぬように、自戒するためのものであったかもしれない。
(同書)

 
▼ 「人間像」第111号 後半   引用
  あらや   ..2023/06/18(日) 17:11  No.989
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本日、「人間像」第111号(210ページ)作業、完了です。作業時間は「88時間/延べ日数19日間」でした。収録タイトル数は「2111作品」。

◇昨年の新春早々から入院生活を続けていた福田儀一が、八月十六日胃ガンのため亡くなった。追悼文の欄にも書いたが、本号の当初の計画は、長い闘病生活を元気づけるために彼と上沢のコンビで詩の特集号を作ってやろう、と言うことだった。それが、病状の悪化で計画通りにならず、遂に追悼詩集というような悲しい結果になってしまった。
(「人間像」第111号/編集後記)

どこからか例大祭の太鼓の音が聞こえる。水天宮かな。



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