| 夜になると、この埋立ての半島に狐火がゆれて、狐が走る。 この半島は、山を削って、埋立て、海岸線から、突出した造成地だ。 その山は、その昔、墓地だった。 昔は死者を棺のまま地中に埋葬するから、山のあっち、こっちに、死者を埋葬して、自然の中へかえした。死者は土の中へとけて消えていく。 だから、この造成された半島には、死者が一緒に埋められ、固められている。この造成地は墓地が移住したのと変らない。 死者も、静寂境の木々のざわめきから、海の波の音のざわめきを聞く環境の変化にとまどっていることだろう。 (丸本明子「夾竹桃」)
丸本さん、巧くなりましたね。(←何を、偉そうに!) 詩人が小説を書こうとすると、大抵は文章に変な力みがかかって読むのが辛くなるのです。以前の丸本さんの小説もそうでした。でも、復帰後の作品は読める。特に、この『夾竹桃』は遂に丸本さん独自の世界を構築したな…と感じました。
今週から「人間像」第107号作業に入っています。『夾竹桃』以降、内田保夫、村上英治、竹内寛、針田和明と続き、ラストは『阿片秘話』ではなく(←終了か?)、千田三四郎(←おお、久しぶり!)『遠い疼き』となります。いやあ、復帰の嵐ではないですか。
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