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あの人はよく海の話をしていた。永いこと船員として外国をめぐっていたあの人にとっては、海が故郷だったのだろう。わたしがきいたことのない港の名をたくさん識っていて、港々で遭遇した面白い話を寝物語にしてくれた。女、酒、喧嘩、など、あの人が話すとすべてが生々としていて、わたしはあの人のことをなんでもしりたくて根ほり葉ほりきいていたっけ。あの人は年の違う子供のようなわたしに、いやな顔ひとつせず話してくれた。……あの人が逝った時、わたしは札幌のお寺にするか、小樽のお寺にするか迷ったけど、やはり小樽にしてよかった。ここなら海もみえるし、潮風もふいてくるだろうし、あの人もきっと喜んでいるだろうな。 (針田和明「穴」)
連休が終わった5月8日から第110号作業に入っています。丸本明子『三毛猫』に続いて、先ほど、針田和明『穴』をアップしたところです。以下、神坂純郎『ある出逢い』、千田三四郎『乾咲次郎私記』、佐々木昌子『孫と童話』と続きます。
五月、作業をしている窓から小樽の海が見える。
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