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「お前は掃き溜に居たんだね、東京の……」 「東京の掃き溜つて、何処さ」 「浅草の十二階下さ、女の掃き溜だよ」 「ふん、女の掃き溜に遣つて来る男は、何でせう。色恋の屑屋でございだわ」 「そんなもんかも知れないね。然し今では熊谷で、春よしのお種と云ふ蝙蝠なんだね」 「鳥無き里ぢやないわ、よ。その家だつて、お君さん、お花さん、みんな十二階下もんよ」 「さうか、矢張り売られた仲間だね」 (松崎天民「十二階下(一)」)
昨日、松崎天民の『宇治龍子に似た女』という作品を人間像ライブラリーにアップしました。この作品は文芸雑誌「新小説」に連載された「十二階下」シリーズの第一回にあたり、後に『女人崇拝』という一冊に纏められるものです。 2023年の現在、この『女人崇拝』を所蔵している図書館は道内にはなく、わずかに国立国会図書館のデジタル・ライブラリーで読むことが可能という状態。ものすごく目が疲れます。でも、喰らいついて、なんとか天民をものにしたい。若き日の沼田流人を理解するには天民が必要なのです。
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