| TOP | HOME | 携帯用 |



司書室BBS

 
Name
Mail
URL
Backcolor
Fontcolor
Title  
File  
Cookie Preview      DelKey 

▼ 「人間像」第84号 前半   [RES]
  あらや   ..2021/02/06(土) 18:40  No.804
  「人間像」第84号作業、始まっています。第84号は〈癌との斗い〉瀬田栄之助特集。本日、巻頭の『ガンとアポロの日記』、『病床孤読の日記』、『負け犬の日記』の三篇をライブラリーにアップしました。以降、『日没を前に』、『狐憑き』の小説二篇が続きます。

この号は針山家では欠号になっていて、北海道立文学館の方からコピーを頂き、それをベースに作業を行っています。何故針山家に無いのか? それはおそらく瀬田氏の生涯唯一の創作集『いのちある日に』(講談社,1970.11)編集のために針山家から供出されたのではないかと考えます。

『負け犬の日記』が終わったところで半ページ分のスペースができたのでしょう。そこに針山氏(だと思う)が『校正だより』という文章を書いています。これも、ある意味、瀬田栄之助特集の一環と言えなくもない内容なので以下に全文掲載してみます。


 
▼ 校正だより  
  あらや   ..2021/02/06(土) 18:45  No.805
   『人間像』は誤植の多いので有名だった一時期がある。今は幾らかましになったと思うのだが、まだ完全とは云いがたい。誤植の原因は原稿が判りにくい、文選が悪い、校正が不充分などであるが、いずれにしても校正の段階で完全を期さねばならないだろう。ところが、印刷所が遠いために何回も校正ができないのである。結局現在は印刷所で初校をして貰い、編集部がそのあと一回校正するだけで印刷に廻しているが、これではやはり不充分であるらしい。
 ところで、本号の瀬田、古宇のように、ルビが多かったり、古い漢字を使う人の原稿は文選も校正も非常に苦労する。そしてまた、そうした人に限って誤植を気にするようだ。今回も瀬田の原稿の表紙に、
「難しい表現や字句が多いですが、どうか、正確に印刷して下さい。御願いします。
   印刷所御中」
 と注意がきがしてあった。すると、その横に赤いボールペンで、
「著者のいう通り一生懸命やろうぜ。正確に文選するよう! 『ガン患者が……』と思うと感激す」 1/10 I・M
 と記されてあった。この雑誌は遠くはなれたA刑務所で印刷しているのだが、そこの囚人が記したのかも知れない。何かそこに通いあうジーンとした血のようなものを感じた。

 
▼ 日没を前に/狐憑き  
  あらや   ..2021/02/09(火) 17:11  No.806
   胃ガンと診断されたわが身であってみれば、それはもう地獄の屠殺場に撃がれたも同然であって、…

うーん、「著者のいう通り一生懸命やろうぜ」という気持ちは美しいが、冒頭一行目からの誤植はいただけない。いつもは「撃がれた」の送り仮名と漢字の形からの類推で「ああ、〈繋がれた〉ね」となるのだが、今回は、プロの出版社の校正本があるので正確度が増しました。(でも、講談社『いのちある日に』にも誤植はあったよ…)

というわけで、本日、『日没を前に』、『狐憑き』の二篇をライブラリーにアップしました。これから古宇伸太郎『暗礁』にかかります。この『暗礁』、「西えぞ地の穂足内村は石狩湾の南岸にあった」という書き出しで始まる小樽話なんですね。楽しめそう。なにか「穂足内騒動」に題材をとった作品みたいです。ヤフーの検索で「穂足内」を打ってみたら、昔のスワン社HP「おたるの青空」にアップしていた橋本尭尚の『穂足内騒動顛末記』が出て来て吃驚でした。クラウドにはまだ残っているのだろうか?

 
▼ 暗礁  
  あらや   ..2021/02/14(日) 09:48  No.807
  福島の地震報道をラジオで聴き続けた今朝、古宇伸太郎『暗礁』をアップしました。さすが原稿用紙150枚だけあって、五日間くらいの時間がかかりましたね。(カーリング観ていたせいもあるけれど…)
久しぶりに再会した橋本尭尚『穂足内騒動顛末記』にもけっこう見入ってしまって、第84号作業が終わったら、こちらもライブラリーに入れてみようかとも思ったんだけど、『暗礁』の完成度のあまりの高さに、『顛末記』の屋上屋は必要ないかと判断したのでした。
タイミングが良いというか、今朝の新聞には、こんなニュースも載っています。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/511148
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/511221

 
▼ 「人間像」第84号 後半  
  あらや   ..2021/02/17(水) 18:12  No.808
  本日、「人間像」第84号をアップしました。作業にかかった時間は「67時間/延べ日数14日間」です。収録タイトル数は「1528作品」。

●本号は「瀬田栄之助特集号」とした。長い間、胃潰瘍を病んでいたが、それは次第に胃ガンに進んでいた。この経過は、彼自身数年に亘って書いて来た「日記」の中に生々しい。去年の五月、胃ガンの手術をすることになったと伝えて来た時には、「追悼号」を準備しなければならないかと思ったが幸い手術は成功し、五○パーセン卜の生存率を得た。「生きたいならば書くのは止めろ」という医師の言葉を、初めの数週間は守っていたが、「書けないぐらいなら死んだ方がマシ」というところに彼の本領がある。まだ定かではない「いのち」と斗い、おびえながら、書き続けたエッセイ三篇と小説二篇をまとめて、「特集」と銘打ったゆえんである。また彼は天理大学スペイン語科の主任教授の重責にある。その専門分野の仕事として裏表紙広告のような、「現代スペインとスペイン語の研究」なる大著を執筆して来たが、その校正も病床で進めなければならなかった。併せて御高読いただきたい。
●もう一つは、古宇伸太郎の「暗礁」である。長い間、胸中にあたためていた題材であり、その一部は『ろんだん』に連載されたが、ここにまとめて、その成果を問うことにした。御高評いただきたい。
(「人間像」第84号/編集後記)

文学館、裏表紙のコピー作ってくれなかったので、第85号の裏表紙画像で間に合わせました。『現代スペインとスペイン語の研究』の広告、多分これでいいと思いますが、後日道立図書館で確認しておきます。今はコロナで身動きとれない。

 
▼ 現代スペインとスペイン語の研究  
  あらや   ..2021/02/18(木) 17:20  No.809
  上の裏表紙画像、掲示板搭載の関係で文字部分がつぶれて読みにくいと思います。何が書かれているかというと、針山和己(←ママ)氏がこの本の紹介をしています。

 人間像同人による近刊予告 〈一九七一年一月刊行予定〉
 現代スペインとスペイン語の研究
 瀬田栄之助著 大盛堂刊 A5判 一五〇〇円

 本書は、瀬田が昨年病躯を押して執筆した文字通りのライフワークである。本書は従来の無味乾燥な参考書と異り、一人の貧しいアルバイト学生に死期の迫まった教師が彼の持つスペイン語とスペインに対する全ての知識を語り伝えるといった真に独則的な手法が用いられている。瀬田は、大阪外語大と天理大でスペイン文化史と文学史の講座を持つだけあって、本書を埋めるスペインの歴史・美術・文学等々に関する多数の該博な論文は、われら門外漢にあっても大いに興味をそそられるところである。
 目下、再校の段階である。本書の発刊と瀬田の速やかなる快癒を友人の一人として待望するものである。 (針山和己)


▼ 愛と逃亡   [RES]
  あらや   ..2021/01/29(金) 18:05  No.802
  単行本『愛と逃亡』の復刻作業、順調に進んでいます。昨日、『愛と逃亡』を終了し、今日から残りの二篇『支笏湖』『女囚の記』に入ったところです。アップまであと数日か。今回は三篇まとめてのアップになります。

『愛と逃亡』、よかった! 針山氏の最高傑作ではないか。(というのはちょっと言い過ぎか… 今、読み終えたばかりだから『愛と逃亡』が最高傑作に感じるだけの話かもしれませんが。『百姓二代』を読んだ直後なら、こりゃあ最高傑作だと感じる人ですからね、私は) ただ、そう思ったのには理由があります。

単行本『愛と逃亡』が人間像同人会から発行されたのは1989年(平成元年)11月です。しかし、同人雑誌「人間像」に『愛と逃亡』が発表されたのは1965年(昭和40年)11月なんですね。ちなみに、『支笏湖』は1967年(昭和42年)、『女囚の記』は1969年(昭和44年)。どういう理由があったのかよくわからないのだけど、じつに二十年以上の時間をかけて熟成された作品群なので、その構造に何の揺るぎもない、針山和美にしか書けない小宇宙になっていると感じるのです。単行本『愛と逃亡』を人間像ライブラリーにアップできることを誇りに思う。


 
▼ 山麓文学  
  あらや   ..2021/02/04(木) 12:29  No.803
  『愛と逃亡』の復刻作業、完了しました。いやー、感じ入りました。

『愛と逃亡』の〈喜茂別〉から〈小樽〉へ流れる展開。『支笏湖』の〈倶知安〉〜〈支笏湖〉の展開。『女囚の記』の〈京極〉〜〈小樽〉〜〈喜茂別〉という展開。ラストに〈胆振線〉がちらっと出て来る凄技に感動した。ここまで人間像ライブラリーをやって来て、よかった。まさに山麓文学の誕生。針山ワールドの誕生だ。


▼ 「人間像」第83号 前半   [RES]
  あらや   ..2021/01/14(木) 09:15  No.799
  本日、第83号の巻頭作品、佐々木徳次『水の柩』、北野広『反省書』をライブラリーにアップしました。以降、小説作品は、金沢欣哉『温泉ノート』、針山和美『女囚の記』と続きます。第83号は約90ページの薄い(と感じるようになりました)本ですので、一週間ぐらいでゴールかもしれません。

今回は『女囚の記』をアップすることになるので、第83号作業が終わった時点で、単行本『愛と逃亡』(『愛と逃亡』『支笏湖』『女囚の記』を所収)の復刻を考えています。雑誌「京極文芸」発表形、「人間像」発表形、単行本発表形の違いをお楽しみください。
同じく、単行本復刻を予定しているものに『百姓二代』がありますが、こちらは「人間像」に『山中にて』『嫁こいらんかね』が発表されてからのアップとなります。


 
▼ 女囚の記  
  あらや   ..2021/01/16(土) 13:56  No.800
  本日、金沢欣哉『温泉ノート その二』、石井健吉『荒れ果てた町』、針山和美『女囚の記』の三篇をアップしました。

 私達はまず巡査や駅員を買収することから仕事にかかりました。食料やお金に困っていたのは巡査も駅員も同じでしたから、私が届けた米や澱粉や野菜などは大変よろこばれました。とにかく給料といいましてもインフレに追いつかないありさまでしたし、規則どおりにやっていては誰もが食べて行けない時代でしたから、巡査も私達のすることは見て見ぬふりをしてくれました。また当時は汽車の切符を買うのにも、朝早くから行列をしなければなりませんでしたが、出札係を買収することによりまして、大阪や広島までの往復切符をたやすく手に入れることができたのです。といいましても、食糧の運搬などを大々的にはできませんでしたから、チッキや小荷物で、できるだけ値の張る小豆や花豆や澱粉などを送り、大阪や京都の菓子屋などに高く売りつけるのでした。そして帰りには中古の衣類や時計・ライター・シガレットケース・貴金属、時には電球のようなものまで買って来ました。大阪や京都にはそうした闇市がたくさんありました。敗戦直後の北海道はほんとうに物資が欠乏していましたから、どんなものでも飛ぶように売れたのです。
(針山和美「女囚の記」)

やあ、懐かしいなあ。「京極文芸」の日々を思い出す。現在の、ニセコと倶知安の違いもわからない輩が垂れ流す「ニセコ」報道にうんざりしている身にとって、針山作品は、私たちが何者であるか、何処から来た者であるかを教えてくれる。

 
▼ 「人間像」第83号 後半  
  あらや   ..2021/01/19(火) 16:39  No.801
  本日、「人間像」第83号をアップしました。作業にかかった時間、「37時間/延べ日数7日間」。収録タイトル数は「1510作品」になりました。
今日は一日中暴風雪。朝から雪かきで身体がくたくたなので、明日からお約束の単行本『愛と逃亡』復刻作業に入ります。

ところが更に一年ほどたって、やむにやまれず私は再度、正確な資料に基いて書き進めたいから、と日記の借用方を音次郎に申入れた。こうしてようやく承諾が得られ、明治四十三年から昭和二十年に至る、実に三十八年間に及ぶ博文館発行のポケット日記が手にはいったのである。日記だけでも、民間航空発達史と言い得る貴重な資料である。ただ文字が細いばかりでなく、音次郎氏独特の文字のくずし方や、赤インクや鉛筆で書き進めながら参照にするのは、いろいろな意味で不便でもあるし、またあとあとのことも考えて、私は先ず全文の筆写を思いたった。しかし昼の勤務のかたわらなので、なかなかはかどらない。見かねて妻と義妹の栄が筆写の仕事を引き受けてくれた。これまでいろいろな原稿を書いてきたけれど、身内に手伝ってもらったのはこれがはじめてである。しかしお蔭でどんなに大助かりであったことか。私は筆写されたノートを中心に、判読し難いところは原文と比較検討して訂正し、どうしてもわからない部分は音次郎氏にただした。一年分の日記が、大学ノート二冊乃至三冊になった。妻と栄はまるまる半年かかって、明治四十三年から昭和二年までの日記を写し終えた。
(平木国夫「空気の階段を登れ」/あとがき)

第83号の平木国夫『楽書帖/ヒコーキ野郎たち』を読んで、平木劇場によく登場する伊藤音次郎、稲垣足穂、円谷英二など、ヒコーキ野郎たちの人間関係がよくわかった。『空気の階段を登れ』、また欲しくなる。


▼ 「人間像」第82号 前半   [RES]
  あらや   ..2020/12/28(月) 14:55  No.794
  本日、第82号の巻頭作品、せんだ・かおす(=千田三四郎)『そして、得られたもの』をライブラリーにアップしました。以降、小説作品は、針山和美『誤算』、金沢欣哉『温泉ノート』、朽木寒三『ハラバ山の伝説』と続きます。

 磯の臭いが、おれをせきたてているのか。からだに、しみついている、この臭いから、逃げだしたい、意識のあがきなのか。いずれにしても、やませ≠フように、突っ走ってしまった行為なのだ。それを正当化しようなんて、考えてもいないし、正義なんて、立場のちがいで、どうにでも理屈づけできる、強者のてまえみそなのだから、『虫けらにだって』と、おれなりの欲求を、ぶっつけたって、結果さえよければ、それなりの言い訳もつこうではないか。なにはともあれ、網を投げこんだからには、予想される障害を押しのけ、うんぷてんぷにまかせて、かかりきるしかない。
(せんだ・かおす「そして、得られたもの」)

『そして、得られたもの』、よかった。イントロから持って行かれて、ラストまで息つかず駈け抜けましたよ。久しぶりの千田ワールドを全身で堪能した。そして次は『誤算』ですからね。たまらない2020年の幕切れです。では、よいお年を。


 
▼ 誤算  
  あらや   ..2020/12/30(水) 18:15  No.795
   「で、スキーの方はどうだろう。正月の二日から三日にかけてニセコへでも?」
「………」
 返事がない。彼女の歓声を心のどこかに期待していた建二は、やはり裏切られたような気持になった。
「でも……」
 とかすかに受話器に音がした。
「どうしたの?」
「実は、伯母の家へ行くことに、一か月も前から決めてあるのよ。ちょうどその日」
 何か緊張のためにふるえているような声だ。
(針山和美「誤算」)

本日、『誤算』をライブラリーにアップしました。単行本未収録じゃないかな、こんな作品読んだことがない…と思いながら作業を進めて来たのだけど、このニセコスキーの場面には何か記憶がある。やはり単行本のどこかには収録されているのだろうか。それとも、持っていない単行本があったりして…
第82号の『誤算』部分に、改稿を指示する原稿が一枚挟まっていましたので、その原稿を活かした『誤算』(改稿版)もつくってみました。

 
▼ ハラバ山の伝説  
  あらや   ..2021/01/06(水) 11:33  No.797
  本日、朽木寒三『ハラバ山の伝説』をライブラリーにアップ。2021年の初仕事となりました。正月は、元日こそ昼間から酒が入ってしまって休んだけれど、二日からは仕事を再開しています。

 ところがそれにつづいて起ったのが、全満洲を恐怖のどん底におとし入れた『ペスト』の大流行である。
 この年――明治四十二年の冬に発生した肺ペストの流行は、北満の、満洲里=ハイラルの奥から始まった。その地方の特産に、『タルバカン』という毛皮動物がいる。陸のカワウソともいうべきもので、土民たちはタルバカンを獲って、毛皮は商人に売り、肉は自分らの食用にする。この肉が媒介して、まず、土民たちがばたばたと死に始めた。
 そこへ、ハルビン方面から商人が入りこんで病菌を持ち帰る。
(朽木寒三「ハラバ山の伝説」)

話の本筋とはあまり関係ない引用ですが、コロナ下の今の記憶として。

 
▼ 「人間像」第82号 後半  
  あらや   ..2021/01/11(月) 17:24  No.798
  本日、「人間像」第82号をアップしました。作業にかかった時間は「85時間/延べ日数18日間」。収録タイトル数は「1501作品」。
約160ページの本なので「85時間」は順当なところでしょうか。作業の途中で歯医者通いが始まり、若い頃からの懸案でもあった奥歯を遂に抜いたりしたので、多少日数がかかっています。

●本号校正中に瀬田栄之助から「小生、本十三日胃ガンの宣告を受け、手術します。いろいろお世話になりました。再起を期します」というハガキが届けられた。一日も早い再起を祈る。「徒労の日記」が痛々しい。
(「人間像」第82号/編集後記)

本当に『徒労の日記』作業は辛かった。いつもならルビや傍点満載の瀬田作品から一切の修飾が消え、箇条書き風の記述が延々と続く今回の日記は異様でした。「胃」という文字を何度打ったことだろう。


▼ 迎春   [RES]
  あらや   ..2021/01/02(土) 16:56  No.796
  今年もよろしくお願いします。

今年は、「人間像」作業も百号が見えて来ている山場だし、もう掲示板での年賀状挨拶はいいのかなとも思っていたのだけど、なにか、大晦日の「東京1337人」のニュースを見て気が変わりました。今日から第82号作業の再開です。



▼ 「人間像」第81号 前半   [RES]
  あらや   ..2020/12/10(木) 09:31  No.791
  本日、第81号巻頭作品、平木国夫『ひとり飛ぶ』をライブラリーにアップしました。以降、佐々木徳次『いちじくの木』、土肥純光『深夜の季節』、内田保夫『勝負は永劫』、瀬田栄之助『問屋場にて』と作業を進めて行く予定です。
第81号は120ページの厚さなので、作業は比較的早く済むような気もするし、今月からは歯の治療が始まったので予想外に手間取るような気もするし、微妙なところ。

 ようやく社内の意見が統一され、空輸の準備がはじまった。ところがである。アメリカ大使館にある海軍武官室に提出しておいた硫黄島とミッドウェイ島の着陸許可申請が却下されたのだ。ベトナム戦争の影響でお気の毒だが絶対に許可出来ない旨、本国から入電しましたのでね、と愛想笑いをしながらも背広姿の海車武官がキッパリと言い切った。
(平木国夫「ひとり飛ぶ」)

そうか、もうベトナム戦争なのか…という感想です。瀬田栄之助さんの四日市ぜんそくとかピカレスクとか、1960年代ぽい雰囲気の中にまだいると思っていたから一瞬虚を衝かれた感じです。1969年、私は17歳。ベトナム戦争ならばもう完全に私の同時代に入って来ていたんですね。


 
▼ 問屋場にて  
  あらや   ..2020/12/18(金) 06:25  No.792
  昨日、瀬田栄之助『問屋場にて』をアップしました。これで、残るは、白鳥昇朗『科学文学論』、上沢祥昭『詩は世につれ』、瀬田栄之助『贋ガン日記』の三本のみ。

それはさておき、せっかく、志摩まできたおまえさんじゃ……そんな間尺に合わぬ仕事はあっさりあきらめて、この先の風光明媚な波切と大王崎にでも行き、海風で頭を冷やして来られるがよい……
(瀬田栄之助「問屋場にて」)

波切(なきり)と大王崎は、「人間像」第77号の『太陽にさからうもの』でも舞台となった地ですね。風光明媚なところなのかな? 作業の合間にちらちらインターネットで波切の海を見ていました。

東京の感染者、新たに822人 2日連続で過去最多
https://news.yahoo.co.jp/articles/bf23ec440fb70428d46a0009279eeee33232ccf3

 
▼ 「人間像」第81号 後半  
  あらや   ..2020/12/21(月) 13:43  No.793
  本日、「人間像」第81号をライブラリーにアップしました。作業にかかった時間は、またも記録更新の「64時間/延べ日数13日間」でした。収録タイトル数は「1490作品」になりました。
冬場でなければ、日数も短縮できるのに…とは思うが、まあそんなことをいちいち言ってもしょうがないか。さあ、雪かきだ。今日の夕方抜歯するのでどきどきしています。その後の経過を見てみないと何とも言えないが、ダメージが少なければためらわず第82号作業に入る予定でいます。
第82号には針山和美『誤算』の名も見えますね。氏には珍しい単行本未収録作品か。

 六月二十二日 土 晴
 赤猫社発行の『自立芸術』中の「アルベルト・ジャコメッティ」(石井守)を病院の待合室で読む。
 医者、はっきりと胃ガンの疑いありという。ガン・センターとの連絡電話の結果を聞いて帰宅。うろたえてはならぬと自戒しつつもうろたえる。家人には何も話さないことにする。
(瀬田栄之助「贋ガン日記」)

2020年暮れの私たちはこの癌が決して〈贋〉ではなかったことを知っていますから、なにかしらこの先物語を読むのがつらい。『問屋場にて』のような美しい作品を書く人に、どうして天はこんな苦しみを与えるのか。


▼ 「人間像」第80号 前半   [RES]
  あらや   ..2020/11/20(金) 16:52  No.787
  本日、第80号巻頭の作品、村上英治『佩刀禁止令異聞』をライブラリーにアップしました。以降、神戸雄三『被害者』、渡部秀正(!)『招待旅行の話』、北野広『逆転』、朽木寒三『ハルピンの雪の夜に』、内田保夫『朱にまじわれ』、佐々木徳治『父の写真』、古宇伸太郎『雨の郭公』とどんどん作業を進めて行く予定です。
第80号記念ということで、いつもにはない企画があれこれ入っていて手間がかかるような気もするし、インクが第79号よりは濃いので130時間もかかるようなことはない気もする。
今、先日(11月11日)発表された国の文化審議会報告書のことを書いています。ちょうど『佩刀禁止令異聞』作業をやっていたので妙にしんみりした気持ちになった。

速報 北海道、新たな感染304人…初の300人超えで、2日連続の最多更新
https://news.yahoo.co.jp/articles/97085e39b623cc58379e1255adae81a6bcce95cc

ラジオニュースが午後二時半の時点でコロナ感染者が三百人を超えたことを報じていました。


 
▼ 招待旅行の話  
  あらや   ..2020/11/22(日) 16:47  No.788
   一行の乗った特急「はつかり」は、既に刈り入れを始めたみちのくの水田地帯にさしかかって居た。その頃、関根達は今夜の宿泊地、松島のパークホテルの平面図を前にして、あわただしい、しかし真剣な打合せを始めて居た。店主が参加する予定の処へ、急にその娘が現われたり、店主と息子の予定が夫婦に変って居る気まぐれの客の為に、昨夜遅くまでかかって作成した部屋割りを、もう一度、やり直さなければならぬ事になりそうだった。
(渡部秀正「招待旅行の話」)

本日、渡部秀正『招待旅行の話』をアップしました。作業は今のところ順調に進んでいます。
2020年の私は、この第80号を最後に渡部さんの作品はもうこれ以降読めないのだと知っていますから、なにか切ない気持ちで作業をしていました。切ないと云えば、特急「はつかり」の名が出て来たことも切なかったなあ。親の仕事が国鉄だったので東京の学生時代は札幌との往復は全て鉄道でした。飛行機に一回も乗ったことがない。いつもこの「はつかり」でしたね。上野から青森駅に着くまでで十時間もかかるんだけど、飛行機料金の十分の一で札幌へ帰れることは貧乏学生には有難かった。この方法以外考えたことはなかったなあ。『招待旅行の話』が見事にこの「はつかり」コースを巡っているので少しばかりセンチになった。

 
▼ 科学文学論  
  あらや   ..2020/11/25(水) 06:53  No.789
   文学が科学的認識でもって解釈できるということは、文学が言語というものから成りたち、言語は文学という記号によって説明されるものでことを認めることになります。さらに、文学というものは記号であると同時に、別な面から眺めれば、それは現象的には紙の上に残された、つまり物理的なものにほかなりませんし、さらに逆の立場から眺めれば、人間相互のコミュニケーションに対する重要な手段であると考えることができます。
(白鳥昇朗「科学文学論〈1〉」)

原稿の字が汚いのか、旭川刑務所の囚人が無学なのか、「文学」と「文字」の字がごちゃごちゃに植えられている。明らかにこの部分は「文学」ではなくて「文字」だろうと手直ししたい欲求に駆られるが、迂闊にそれをやってはいけないと思いとどまる。
『同人通信』にこの誤植についての白鳥氏のコメントでもあれば直せるのだが…と思って、久しぶりに『同通』も見たが言及はない。ということは、紙面にでている通りの文章で今はアップするしかない。

数十年ぶりに吉本隆明『言語にとって美とはなにか』を引っ張り出して読み返しています。「本稿は、一九六一年九月から一九六五年六月にわたって、雑誌『試行』の創刊号から第十四号まで連載した原稿に加筆と訂正をくわえたものである」とありますから、当然、白鳥氏の1968年の『科学文学論』はこの『言語に−』に触発されて書かれたものなのでしょう。当時の吉本隆明の影響力を感じます。今年は夏のNHK教育テレビ「100分で名著」で、これまた数十年ぶりに『共同幻想論』を読み返したりと、ちょっとした吉本イヤーだった。

 
▼ 「人間像」第80号 後半  
  あらや   ..2020/12/03(木) 11:31  No.790
  「人間像」第80号作業完了。本日、ライブラリーにアップしました。作業にかかった時間、最速の「83時間/延べ日数16日間」でした。収録タイトル数は、「1478作品」。濃いインクが本当にありがたい。

 半身を起して男は再び
「おい!」と叫んだ。男の喉声が、男の不安をさらにあふる。母の返事がにぶく伝わってきた。
「いない、やっぱりいない――」 男はとび起きて、兵児帯をまき巻き、階段をおりた。
 二日ほどまえ、足首をくじいた母が、寝床から
「いま、でていったよ」と首をのばした。
「いま?」
「そ、五分もたたないね」 腹ばいになって、雑誌をひろげていた妻の兄も、片手をついて顔をあげた。
「どこへいくって?」
「さ、なんともいわなかったね」
(古宇伸太郎「雨の郭公」)

こういうの、私小説って言うんだろうか。あまり馴染みのない分野なんですけど、変にズーンと響く重さがあったな。ましてや、私たちはすでに福島昭午『妥協』(第39号)を読んだ後の人たちですからね。とても感じ入った。80号記念ということで巻末に「総目次」が10ページ(!)に渡って繰り広げられています。この10ページのひとつひとつを全て読んでここまで来たんだ…と感無量になった。コロナウイルス「第三波」のど真ん中で仕上げたことにも少しばかり自己満足。








     + Powered By 21style +